最低映画?!今村昌平監督『うなぎ』解説あらすじ

あ行の監督

始めに

始めに

 今日はパルムドール受賞作品『うなぎ』のレビューを書いていきます。否定的な内容なので、気になる方は読み飛ばしてください。

演出、ジャンル、ムード、背景知識

リアリズム

 今村昌平はサルトル、チェーホフ(『桜の園』)、ストリンドベリ、シェークスピア、井原西鶴、坂口安吾(『桜の森の満開の下』)、黒澤明(『野良犬』)など、リアリズム、象徴主義作品に演出的基礎をおいています。この作品においても、過去に妻を殺した役所広司演じる男の、仮出所中のドラマをリアリスティックに描いています。

原作である吉村昭「闇にひらめく」『仮釈放』、その脚色

 この作品はクレジットのある吉村昭「闇にひらめく」に加えて『仮釈放』という作品を原作にしているようです。「闇にひらめく」では過去に姦通した妻と間男を「刺傷」した前科のある男の消えない罪と社会への復帰のドラマ、『仮釈放』は過去に姦通した妻やその間男と母親を「死傷」した男の仮出所中の、相変わらずの業深さが描かれます。トルストイ『クロイツェル=ソナタ』を思わせる内容です。

 『うなぎ』はかつて過去に姦通した妻と不倫相手を「死傷」した男を同情的な眼差しで追い、どちらかというと仮出所中の周りの人間の方が悪として描かれています。

 このため主人公にかなり共感しづらいです。主人公の描かれ方をまとめると「人見知りで物言わぬうなぎに異様な執着を感じ、過去に浮気した妻を惨殺した、根はいい人だけど不幸な人」みたいな感じです。けれどこんな主人公に全く共感、同情ができませんし、ただの人格破綻者としか映りません。ミソジナスなドラマで嫌になります。

今村昌平は助監督向き

 そもそも今村昌平は『豚と軍艦』などの例外はありつつ、基本的に監督作品に優れたものはなく、助監督向けの才能です。画面の構成とか演技指導はイマイチなのですが、テキパキ仕事はできるので、監督補佐や現場の交通整理は上手いのです。貶める意図はなく、向き不向きの問題で、今村は表現者としては助監督で最も輝く才能です。

 監督の業務には画面の構成のデザインの業務に加えて、現場の監督や交通整理の仕事があるのですが、2つは別技能で、前者はアーティストとしての美的なセンス、後者は人を動かす仕事人としてのセンスが要求されます。後者が苦手な監督も多いですが、今村は人誑しで仕事の要領はいいので後者に特化して長けています。なので監督の補佐役としてはうってつけなのです。

 とはいえこの作品は演出家としての今村の至らなさを露呈する愚作です。

なぜ本作のような作品が国際的な賞を取るのか

 映画作品を手掛けた人は分かると思うのですが、商業映画と学生映画には圧倒的に雲泥の差があります。学生映画は基本的に、人にみせられるラインに達していません。

 これがなぜかというと、まず編集、撮影、照明に関しては専門的なスキルが必要で学生映画にはそれがありません。タレント監督や脚本家の作品も結構、全体的にはめちゃくちゃでもカットやシーン単位では見られる部分があったりするのですが、これはプロの技術が画面をデザインしているからです。

 加えて、商業映画は予算のケタが全然違います。結局映画は、予算がある程度かからないと、見せられるものが作れないです。

 つまるところ、学生映画にないものというのは専門的なノウハウを持つ人材と予算なのです。今村昌平は人誑しで仕事ができるので、人脈づくりや商業的なセンスには長けていました。エロを売り物に相対的に低予算のアート映画で集客を図るなど、とにかく山師的な才能には大島渚やホドロフスキーくらい長けています。

 結局、今村昌平の画面のデザインセンスが素人に毛が生えた程度でも、人脈と予算を取り付ける才覚があれば、いずれは国際的な結果や評価もともなっていくのだと思います。

物語世界

あらすじ

 山下拓郎(役所広司)はかつて姦通中の妻を惨殺し、仮出所しました。内向的な服部は、理髪店を営みながら、他の人間と関わろうとしません。飼っているうなぎに唯一心をひらいています。

 やがて服部圭子(清水美砂)という女性が彼に惹かれます。そんな山下の前に刑務所で知り合った男、高崎が現れます。高崎は、桂子と幸せそうに働いている山下を妬み、桂子に山下の前歴をバラしたり、執拗な嫌がらせをしてきます。

 また、圭子は堂島という愛人との関係に悩み、堂島に執着されますが、そんな圭子を山下は守って、刑務所に戻されます。

登場人物

  • 山下拓郎(役所広司):かつて姦通した妻を惨殺。仮釈放中に理髪店を営む。うなぎに異様な愛着があり、飼育している。
  • 服部圭子(清水美砂 ):山下の性格に惹かれる。
  • 高崎(柄本明):山下の服役仲間。山下に嫉妬し嫌がらせをする。

モチーフ、テーマ

 うなぎは作品に登場しますが、何の象徴であるのかはよくわかりません。「闇にひらめく」では、うなぎは水面にときどき映る、過去の消えない傷跡のような存在でしたが、この作品ではそんな感じではありません。

総評

愚作。パルムドールを汚すもの

愚作です。パルムドール作品は当たり外れがありますが、これはハズレ。もっぱら今村の人脈や経歴、国籍、邦画という文化総体に対して与えられた賞でしょう。

関連作品、関連おすすめ作品

・吉村昭『海馬』『仮釈放』:原作です。吉村昭は大作家です。

参考文献

香取俊介『今村昌平伝説』(河出書房新社)

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