はじめに
橋口亮輔監督『恋人たち』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
ニューシネマ、ニューエイジ、リアリズム
橋口亮輔はニューシネマ風のリアリズムが特徴です。特に本人のマイノリティ性も含めて個人的にはガス=ヴァン=サント監督(『グッド=ウィル=ハンティング』)を連想するリアリズムです。
カウンターカルチャーであるところのニューシネマにはSW4などに顕著なようにカリフォルニアのスピリチュアル運動、ニューエイジの影響が顕著ですが、サントにもその影響は大きいです。イシャウッド、ウォシャウスキー姉妹などもそうですが、ニューエイジ的なスピリチュアルズムはマイノリティの自己発見や自己実現のための受け皿としての側面がありました。
サントもキャリアの中でスピリチュアル的な傾向を強め(『永遠の僕たち』)、ちょっと常人にはついていけない内容になっていきましたが、橋口亮輔はスピリチュアル的なものに対してはそう好んでもいません。『ぐるりのこと。』では仏教(東洋スピリチュアル)について肯定的描写が見えましたが、本作に描かれるスピリチュアルはかなりネガティブに描かれています。
木下恵介風リアリズム
橋口亮輔はブログに言及が見える通り、木下恵介監督からの影響が顕著です。松竹蒲田を代表する木下恵介監督ですが、橋口亮輔同様セクシャルマイノリティであります。
木下恵介監督『衝動殺人 息子よ』同様、本作も通り魔で家族を失った主人公の心理が展開されます。
淀川長治の影響
橋口亮輔監督は淀川長治監督から顕著な影響を受けました。そして三島由紀夫や谷崎潤一郎作品を推薦されました。
本作もオムニバスのデザインとして三島由紀夫『鏡子の家』と共通する印象です。
三人の主人公のオムニバス
本作品はまあグランドホテル形式の内容で、三人の主人公のオムニバスドラマが展開されていきます。それぞれの主人公のドラマが時折交錯しますが、それほど三人が相互に影響し合うわけでもありません。
また『恋人たち』というベタなタイトルからは連想しづらい、社会の中でのアウトサイダーの恋が描かれています。
主人公の一人の瞳子は平凡な主婦でありながら代わり映えのない日常に飽き飽きしており、非日常的なものに憧れています。さながら『ボヴァリー夫人』のようです。やがて、彼女は現実を見つめ直し、もとの生活へと回帰します。
弁護士の四ノ宮はプライドが高く嫌味な男ですが、同性愛者というマイノリティです。自身に向けられる偏見に戸惑い翻弄され、大切な関係が奪われていく姿は胸が痛みます。いわれなき偏見に耐えながら、日常へとコミットメントしていく姿が描かれます。
アツシは妻を事件に巻き込まれて喪失しており、そのトラウマに苛まれています。そこから立ち直ろうとするドラマが胸を打ちます。
それぞれの主人公のキャラクターやエピソードは印象的ですが、オムニバスの形式をうまく生かせていないきらいもあります。耐え難い日常に再びコミットメントしていく覚悟が三人のドラマに共通してはいるのですが、もう少しそれぞれ接点あったほうが面白かったかもです。
物語世界
あらすじ
弁当屋に務める瞳子は、夫と姑と暮らしています。雅子妃のファンである彼女の日課は、皇居参観の際に撮ったビデオを見直すことです。
取引先である肉屋の弘と偶然に会った瞳子は、晴美のスナックで、美女水という高価な飲料水を売られます。後日、美女水を持った弘が瞳子の家に訪ねてきます。
弁護士の四ノ宮は、夫を結婚詐欺で訴えようとしている女子アナの相談に乗ります。帰り道、何者かに背中を押され、階段を転げ落ちます。
入院している四ノ宮のもとを、友人である不動産業者の聡が見舞います。聡は、四ノ宮が同性愛者だと知っているも、彼からの好意は知りません。
3年前の通り魔殺人事件で妻を亡くしたアツシは、橋梁点検の仕事に就いています。アツシは、以前より損害賠償請求の訴訟を起こそうと弁護士に相談をしていたものの、断られます。絶望して無断欠勤の続くアツシを心配した先輩の黒田が、前借金と差し入れを持ってアツシの家を訪れます。
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