ヒューストン監督『マルタの鷹』解説あらすじ

ジョン=ヒューストン

始めに

 ヒューストン監督『マルタの鷹』解説あらすじを書いていきます。原作はハメットです。

演出、背景知識

原作者のハメットのヘンリー=ジェームズ流リアリズム

 ハメットが顕著な影響を受けた作家がヘンリー=ジェームズ(『鳩の翼』)でした。

 ヘンリー=ジェームズはツルゲーネフやフローベール、バルザックなど、ロシアやフランスのリアリズムからの影響が顕著な作家です。そこから独特のリアリズムを展開し、ドストエフスキー『罪と罰』『悪霊』のような、公共圏におけるさまざまなアクターの戦略的コミュニケーションの交錯の中で紡がれる実践の顛末を描いていきました。同様にハメットも、作品内のさまざまなアクターの戦略的コミュニケーションが描かれていきます。

 また等質物語世界の語り手も好んだジェームズですが、ハメットにもそれは継承されていき、『血の収穫』もそれが現れています。とはいえ、『マルタの鷹』は異質物語世界の語り手です。

『マルタの鷹』の行動主義

 ハメット『マルタの鷹』は異質物語世界の語り手を設定していますが、H=ジェイムズ『鳩の翼』や川端『山の音』などの心理劇とは対照的に、語り手の焦点化がなされる人物に関しても、その内面に関しては内的独白のような形で直接語られることがありません。漱石『こころ』や川端『雪国』に似て、集合行為における一部または全部のアクターの心理が焦点化の対象として省かれていたり内的独白が省かれたりしているため、読者はこれに解釈でアプローチするよりありません。

 このような記述のあり方は行動主義心理学、消去主義的心理学的な、「こころ」を行動やセンスデータなどの観察から得られるリソースに還元する心理学的潮流のアプローチと重なります。

本作における脚色

 ジョン=ヒューストンは脚色の要領もいい巨匠ですが、本作は映画化のハードルがかなり高い作品です。

 正直、映画という芸術ジャンルでは、内的独白を排した語りのデザインはそう特殊なものではありません。むしろそれ故に、原作の特異な語り口のニュアンスを演出することが難しくなっていると言えます。

 本作はそこで無理な冒険をせず、原作のプロットを無難に追いかけるサスペンス、フィルム・ノワールとなっています。

物語世界

あらすじ

スペード=アンド=アーチャー探偵事務所にミス=ワンダリーと名乗る女性が訪れてます。依頼はサーズビーという人物から妹を救ってほしいとのこと。スペードのパートナーのアーチャーがサーズビーの尾行を引き受けるも、アーチャーは尾行の最中に射殺され、事件直後にサーズビーも殺されます。

 ミス=ワンダリーは次にミス=ルブランと名乗るも、これもまた偽名、本名はブリジッド=オショーネシーです。彼女は妹についての依頼は作り話だったとして、スペードに助けをまた求めますが、詳細を伝えません。

 ブリジッドが追っていたのはマルタの鷹の彫像です。スペードは彫像を追う者たちと接触し、ブリジッド以外にもカイロ、ガットマンとその配下のウィルマーが狙っていることが判明します。やがて彫像を手に入れたスペードは、悪党たちとの交渉に向き合います。彫像はガットマンに売却するも、ガットマンが調べると偽物でした。ウィルマーは逃走、ガットマンとカイロが立ち去るも、スペードは彼ら全員を警察に通報します。残ったブリジッドに対し、スペードは彼女がアーチャーを殺した犯人で、最初からわかっていたと告げます。ブリジッドは懇願するも、彼女も警察に引き渡されます。

コメント

You cannot copy content of this page

タイトルとURLをコピーしました