始めに
クローネンバーグ監督『ザ=フライ』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
新古典主義
本作品の演出家・クローネンバーグは卓越した新古典主義者です。アートワールドの中の既存のスタイルの歴史にアクセスし、独自の演出を構築しています。本作品においてもドイツ表現主義、ハマーフィルム、ロジャー=コーマンの怪奇映画作品などに対するオマージュが随所に見えます。その辺り黒沢清、塚本晋也、リンチと重なります。
アート映画の前史としてT=S=エリオット『荒地』、ジョイス『ユリシーズ』などの新古典主義の作品がありますが、そうした古典主義はゴダール(『ゴダールのリア王』)やトリュフォー(『アデルの恋の物語』)に受け継がれ、さらにその後、クローネンバーグ、リンチ(『ブルーベルベット』)、黒沢清(『CURE』)、塚本晋也(『鉄男』)などへと継承されました。
アート映画に影響したシュルレアリスムのカウンターカルチャー、アウトサイダーアート
アート映画にはシュルレアリスムの作家コクトーも関わっているなど、シュルレアリスムからの影響が特に顕著です。
シュルレアリズムにおける代表格のアンドレ=ブルトンは実在の若い犯罪者に着目するなど、既存のモラルや法を相対化する存在を追求するアウトサイダーアート、カウンターカルチャーを展開しました。
またブルトンは経験的な物理法則や素朴な物理的直感を裏切る要素を孕む幻想文学(カフカ、ゴーゴリなど)に着目し、既成の芸術やブルジョア社会へのアンチテーゼとしてそれを捉えました。
カフカ『変身』的なファンタジー
本作はカフカ『変身』などからの影響が見えます。
またカフカ『変身』的な、メタモルフォーゼを描く内容になっており、塚本晋也監督『鉄男』と重なります。
オリジナルとの違い
ニューマン監督『ハエ男の恐怖』のリメイクが本作です。
物質転送の研究者が、実験中のアクシデントで蠅と融合する設定はオリジナルと同様ですが、妻の視点からの回想形式で枠物語的に描いたオリジナルと違い、本作は蠅男に変身していくプロセスを時系列に沿って追います。本作にはジョルジュ・ランジュランの小説『蝿』という原作があり、オリジナル版はこの原作の形式とプロットを踏まえています。
また、メロドラマ的なテイストが強くなり、蠅男への変身も、妻ヴェロニカと彼女の上司で元恋人のステイシスとの関係に嫉妬し、泥酔したセスが自棄になってやったことが原因です。
妊娠と出産を巡るホラーになっているのも独自の脚色です。
物語世界
あらすじ
天才科学者セス=ブランドルは、パーティーの席で見惚れた女性記者ヴェロニカに近づくために、自分の秘密の研究を伝えます。
それは隣り合う2つのポッドの片方に収めた物体を細胞レベルで分解し、もう片方へ送った後、元の状態に再構築するという物質転送機「テレポッド」の開発でした。無機物の転送実験には成功していたものほ、有機物では失敗が続いていました。
すぐに記事にしようとするヴェロニカに対し、未完成の現段階で情報漏洩を避けたいセスは、自分を密着取材し、完成の暁には著書として発表してはどうかと提案します。
二人の仲は接近し、恋人関係になると、ヴェロニカの言葉から閃いたセスは、そこから改良を重ね、生物の転送に成功します。ところが数日後、ヴェロニカと彼女の上司で元恋人のステイシスとの関係に嫉妬し、泥酔したセスは、自らの転送を実行します。
心配するヴェロニカだったが、セスはむしろ転送前より強靭になっていました。セスは細胞が分解と再構築をしたことで肉体が浄化されと考え、ヴェロニカにも転送を強要するものの、ヴェロニカがこれを拒み、二人の仲は険悪になります。
やがてセスの身体に数々の異変が起こります。セスが転送の記録を再確認すると、の転送時、彼の入ったポッドに1匹のハエがまぎれ込んでおり、再構築にあたって遺伝子レベルでセスとハエが融合していたことが判明します。
セスは強靭な身体能力を得たものの、爪は剥がれ、髪が抜け、耳も落ち、溶解液を吐き、壁や天井を這うようになります。セスを案じるヴェロニカですが自身の妊娠が発覚、子供もハエの遺伝子を受け継いでいる可能性があると知り、堕胎しようとするものの、セスはヴェロニカを浚い、出産を迫ります。
一方、ヴェロニカを案じたステイシスは、セスを始末しようとショットガンを持って研究所へ忍び込んだものの、セスに溶解液で手足を溶かされ失神します。
セスは、人間に近づこうと、テレポッドを使ったヴェロニカ及び胎児との融合を画策します。ヴェロニカの抵抗で下顎が剥がされたのを皮切りに、セスの肉体を突き破り、完全なハエ人間ブランドルフライが生まれます。
ブランドルフライはヴェロニカをポッドへ押し込み、自身ももう1つのポッドに入るものの、意識を取り戻したステイシスがヴェロニカのポッドのケーブルを破壊します。ブランドルフライがガラスを破って外へ出ようとしたところで、装置のタイマーが作動し、ポッドの部品と融合します。
這うようにしか動けなくなったブランドルフライにヴェロニカは銃口を向けるものの、撃てずに泣き崩れます。ブランドルフライは銃口をつかみ、自身の頭部へ向けます。ヴェロニカは彼の願いを受け入れ、これに応えます。



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