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デヴィッド=リンチ監督『ブルーベルベット』解説あらすじ

1980年代
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はじめに

デヴィッド=リンチ監督『ブルーベルベッド』解説あらすじを書いていきます。

演出、背景知識

新古典主義

 本作品の演出家であるデヴィッド=リンチは卓越した新古典主義者です。アートワールドの中の既存のスタイルの歴史にアクセスし、独自の演出を構築しています。本作品においてもドイツ表現主義、怪奇映画作品などに対するオマージュが随所に見えます。

 アート映画の前史としてT=S=エリオット『荒地』、ジョイス『ユリシーズ』などの新古典主義の作品がありますが、そうした古典主義はゴダール(『ゴダールのリア王』)やトリュフォー(『アデルの恋の物語』)に受け継がれ、さらにその後、クローネンバーグ(『クライムズ=オブ=ザ=フューチャー』)、リンチ(『ブルーベルベット』)、黒沢清(『CURE』)、塚本晋也(『鉄男』)などへと継承されました。

ゴーゴリ「鼻」

 本作品においては草むらに耳が落ちているシーンが印象的です。個人的にはゴーゴリ「」の影響を感じさせます。ゴーゴリなどのロマン主義の作家はシュルレアリスムへの影響が顕著で、それが既存の芸術やブルジョワ社会へのアンチテーゼと見做されたのでした。リンチ監督やアート映画に対してはシュルレアリスムの影響が顕著で、本作もそうしたモードを共有します。

 ゴーゴリ「」はパンの中から鼻が出てくるというファンタジックな状況から発展するリアリズムベースのコメディです。人体のパーツのモチーフという点で本作と共通性が見えます。

艶笑喜劇(サド)、シュルレアリスム

 またシュルレアリスムに大きな影響を与えたのがサドでした。アウトサイダーアート、カウンターカルチャーとしてのシュルレアリスムは性的逸脱とモラル、法との衝突を描いたサドに着目したのでした。そうしたモードは川端康成『眠れる美女』、三島由紀夫『サド侯爵夫人』などに現れます。

 本作もサドの影響が顕著で、性的逸脱が人間関係の網の目の中での心理劇に重要な要素になっています。

一人称視点のリアリズムを生かした心理劇

 本作品とコンセプトとして重なるのは漱石『こころ』やロブグリエ『嫉妬』、谷崎潤一郎『』『痴人の愛』、芥川『藪の中』、フォークナー『響きと怒り』と言えます。集合行為における一部のアクターを語りの主体にしたり、または一部のアクターにしか焦点化をしないために、読者も登場人物と同様、作中の事実に不確かな認識しか得られるところがなく、限定的なリソースの中で解釈をはかっていくことしかできません。

 父親の入院を期にジェフリー=ボーモントは大学を休学し、故郷の田舎町ランバートンに帰郷します。ある日、父親を見舞った帰りにジェフリーは、野原で切断された人間の片耳を発見し、そこからサスペンスに巻き込まれていきます。物語はジェフリーの視点から、断片的語りで展開されます。

 全体的に朦朧とした語りを口の中で、読者は作品内の事実について解釈していきます。また複数のアクターの合理的戦略的コミュニケーションが交錯し展開されていくデザインはドストエフスキー『罪と罰』『悪霊』、エドワード=ヤン監督『エドワード=ヤンの恋愛時代』などを連想します。

物語世界

あらすじ

 父親の入院を期にジェフリー=ボーモントは大学を休学し、故郷の田舎町ランバートンに帰郷します。ある日、父親を見舞った帰りにジェフリーは、野原で切断された人間の片耳を発見します。

 片耳を父親の友人であるジョン=ウィリアムズ刑事の元に届けたジェフリーは、それが縁でウィリアムズ刑事の娘サンディと知り合います。サンディによると、今回の事件には、ドロシー=ヴァレンズなるクラブ歌手が関係しているそうです。

 ジェフリーは事件解決の手がかりを得るため、サンディの協力で、ドロシーが暮らすディープ=リヴァー=アパートの710号室に無断で侵入します。ドロシーが帰宅し、ジェフリーは急いでクローゼットの中へ隠れます。すると突如フランクから電話がかかってきます。フランクはドロシーの夫ドニーと息子ドンを人質に取っており、ドニーの耳を切断して野原に捨てていたのでした。フランクは二人の声をドロシーに聞かせます。

 電話の後、ドロシーは隠れているジェフリーに気付きます。ドロシーはジェフリーに刃物を突きつけ、クローゼットから出て服を脱ぐように命じます。それからドロシーはジェフリーに口淫します。

 玄関のベルが鳴り、ジェフリーはまたクローゼットに隠れます。フランクは部屋へ入ってくるとドロシーに暴力を振るい、倒錯的な性行為を強要します。フランクが出て行った後、ジェフリーはドロシーを助けたいと伝えます。ドロシーは混乱し、ジェフリーに自分を殴らせようとするものの、ジェフリーはドロシーをなだめ、その場を後にします。

 翌日の夜、ジェフリーはサンディに昨夜の様子を話します。

 その後、ジェフリーはドロシーの家を再び訪れます。ドロシーはジェフリーを迎え入れ、二人は肉体関係を持ちます。

 ジェフリーはドロシーがいるクラブへ通い始めます。ある夜ジェフリーは、手下とクラブで飲んでいるフランクに気付きます。ジェフリーはフランク達の車を尾行し、フランクの自宅を突き止めます。

 翌日、車に隠しカメラを仕込み、フランクの自宅近くで張り込みをし、ジェフリーはフランクがゴードンや麻薬売人と会っている現場を撮影します。

 サンディと交際をしつつ、ジェフリーはドロシーとも関係をもちます。ある夜、ジェフリーはドロシーの家から帰ろうとするとき、フランクと手下達に遭遇し、怒ったフランクは、ジェフリーとドロシーを強制的に車に乗せます。

 車は麻薬ディーラーのベンの家へ着き、そこにはドニーとドンが監禁されています。ドロシーは家族との面会を許可されます。ベンの家を出た後、フランク達は町外れの製材所でジェフリーをリンチし、フランクは、二度とドロシーに近づくなと警告します。

 ジェフリーは、ウィリアムズに一部始終を話そうとし、警察署へ行くと、ウィリアムズの部屋にはゴードンがいます。ゴードンは、ウィリアムズと同室の刑事でした。ゴードンをフランクのスパイだと思ったジェフリーは引き返し、その夜、ジェフリーは自宅にいるウィリアムズをまた訪ね、撮影した写真を見せつつ事件について話します。ウィリアムズは、ジェフリーにこれ以上この事件に関わらないよういいます。ジェフリーはサンディと金曜日のデートの約束をして、ウィリアムズ家を去ります。

 金曜の夜、ジェフリーがサンディを車で自宅まで迎えに行くと、そこにはウィリアムズとゴードンがいます。ジェフリーはサンディとダンスパーティへ出かけます。

 パーティからの帰り、ジェフリーとサンディは、サンディのボーイフレンドに絡まれます。そこへ茂みから裸で傷だらけのドロシーが現れます。フランクから逃げ出したドロシーは、裸で街をさまよっていました。ジェフリーとサンディはドロシーを保護し、サンディの家へ連れていきます。

 ジェフリーに縋り付くドロシーを見て、サンディは二人の関係に気付き泣きます。ドロシーの搬送に付き添った後、ジェフリーはサンディに電話で謝罪し、和解します。電話の後、ジェフリーはドロシーの家へ向かい、サンディは警察へ連絡し、ウィリアムズに助けを求めます。

 ドロシーの家の中で、ジェフリーはゴードンとドニーの遺体を発見します。ドニーの左耳は切り取られていました。ゴードンの黄色い上着のポケットには、無線があります。ゴードンはフランクに潜入していたものの、正体が割れてフランクに殺されていました。
 ウィリアムズはフランクの自宅への突入を指揮しています。ゴードンが持っていた無線で、ジェフリーは現場のウィリアムズに連絡を取ります。同じく警察の無線を入手していたフランクは、ジェフリーがドロシーの家にいることを知って戻ります。ジェフリーはゴードンの上着から銃を抜き取りクローゼットに隠れます。

 部屋に入ってきたフランクは、クローゼットの中のジェフリーに気付きます。しかしジェフリーはクローゼットからフランクの頭を撃ち抜きます。やがてサンディとウィリアムズがドロシーの家に駆けつけてきます。

 事件が解決し、ジェフリーとサンディはまた仲良くなり、ドロシーはドンを取り戻し、街には再び平和が訪れます。

参考文献

・”Revolution of the MInd:The Life of Andre Breton”

 

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