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追悼ゴダール。『ゴダールのリア王』解説あらすじ

1980年代
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始めに

 去年、ジャン=リュック・ゴダール監督が亡くなられました。今回は戦後フランスを代表する映画作家ゴダールの代表作についてレビューを書いていきたいと思います。

演出、ムード、ジャンル、成立背景ついて

ヌーヴェルバーグ流のリアリズム、文化人類学、叙事演劇

 アンドレ=バザン主催の『カイエ=デュ=シネマ』に参加したゴダールは、バザン流のリアリズムの薫陶を受けました。これはオーソン=ウェルズ(『市民ケーン』)、ロベルト=ロッセリーニ(『イタリア旅行』)に倣いつつ、編集について否定的な立場を取り、カメラをなるべく透明なものにしようとしたものです。一方でゴダールは、バザンの見解に同調しつつ、映像同士のモンタージュの手法も評価しました。ゴダールは、カメラを現実を映す透明な存在というより現実をある形式で発見するツールと見ました。

 またゴダールはソルボンヌ大学時代に文化人類学を学び、ジャン=ルーシュの人類学的映画にも興味を持っていました。こうした知見はテクストの歴史の体系(アートワールド)にアプローチする際の手法として、本作品にも遺憾無く発揮されています。加えて、ゴダールはベルトルト=ブレヒトの叙事演劇に影響されました。これは複数芸術である演劇において、具体的な事例を成立するプロセスに関する演出理論です(7リメイクの記事から複数芸術に関する説明が読めます)。これは演劇において戯曲や演出に対して俳優が抱く違和感や態度を、演出に取り入れようとするものと言えます。

 こうした姿勢はゴダールが古典に向き合うための、新古典主義者としてのアプローチを形成したといえるでしょう。

創作するプロセス自体を描く新古典主義

  『ゴダールのリア王』は、ゴダールという作家本人に焦点を当て、古典を題材に作品をつくるというプロセスそれ自体を作品としています。その辺りはゴダール監督『軽蔑』と重なりますが、ブレヒトの異化理論の影響が見えます。

 ジェイムズ=ジョイス『ユリシーズ』のように、この作品のなかにおいて、作家の周辺の人物や出来事はウィリアム=シェイクスピア『リア王』というテクストの象徴として再現されています。ゴダールはそれによってアートワールドの歴史の中に位置する『リア王』というテクストに新たな解釈を与え、アートワールドの構造に変化をもたらそうとします。同様のコンセプトは村上春樹『風の歌を聴け』などの著作にも通底すると思います。

第二次の語り

  この作品は第二次の語りが導入されています。まずゴダールが『リア王』映画化の依頼を受ける展開があり、その後ゴダールによる『リア王』の映画化作品が第二次の語りのテクストとして展開されます。そこにおいてピーター=セラーズ演じるシェイクスピア五世が主人公で、ホテルで食事をしていて、隣席でマフィアのボスであるドン=レアーロとその娘コーディリア(モリー=リングウォルド)の話が聴こえるのですが、その内容は祖先シェークスピア=シニアの『リア王』そのままで、彼は17世紀の物語を現代に焼き直そうとします。やがてシェイクスピア五世の物語において、コーディリアは『リア王』同様に死にます。

 このような作中作を積み重ねる手法によってフィクションと現実の境界線が問い直されるデザインです。

フィクション世界について

あらすじ

 冒頭にはオーソン=ウェルズ、フランソワ=トリュフォーなど、さまざまな映画監督のポートレートが写ります。

 ゴダールのナレーションでキャノン=フィルムからシェークスピアの『リア王』を映画化する依頼を受けたと語られます。脚本家として参加したノーマン=メイラーとのやり取りや、バージェス=メレディスやモリー=リングウォルドとのテスト撮影が描かれます。

 そこから作中作が始まります。レマン湖畔の町ニヨンに現れたウィリアム=シェークスピア五世は、プラッギーと呼ばれる教授にとある魔術を聴き出すために町を訪れ、ホテルで食事をしていて、隣席でマフィアのボスであるドン=レアーロとその娘コーディリア(モリー=リングウォルド)の話が聴こえます。その内容は祖先シェークスピア=シニアの『リア王』そのままで、彼は17世紀の物語を現代に焼き直そうとします。

 シェークスピア五世は教授の助手エドガーに出逢います。教授は物語をつくりだす魔術の研究をしているうちに、「映画」を発明します。復活祭の日、教授は映画のプリントの入ったフィルム缶をひとつ遺して死にます。シェークスピア五世がその謎を解いてもらうべく、編集技師エイリアン氏の仕事場に届けます。『リア王』のストーリー通りコーディリアは死に、シェークスピア五世は彼女の白馬が駆けていく姿をその映像のなかに観るのでした。

登場人物

  • 本人、プラッギー教授(ジャンリュック=ゴダール):本人としては『リア王』の映画化を依頼され、作中作におけるプラッギー教授としてはシェイクスピア5世に、『リア王』翻案の示唆を与える
  • ウィリアム=シェイクスピア5世(ピーター=セラーズ):作中作に登場。先祖のシェイクスピアが作った『リア王』の翻案を試みます。

 

関連作品、関連おすすめ作品

・大江健三郎『水死』、谷崎潤一郎『吉野葛』、後藤明生『吉野太夫』:創作する手続きそのものを描く作品。

参考文献

コリン・マッケイブ著 掘潤之訳『ゴダール伝』(みすず書房,2007)

岩淵達治『ブレヒト』(清水書院.2015)

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