始めに
始めに
今回はカンヌにあやかって、過去のパルムドール受賞作品『万引き家族』を振り返っていきます。
演出、ジャンル、ムード、背景知識
伝統的な血縁的な絆の崩壊のドラマ
是枝裕和監督は、松竹蒲田調の小津安二郎、成瀬巳喜男(『浮雲』)の影響を強く受けつつ、洗練されたリアリズム演出を構築しています。フォルマリスティックな語りの中でオブジェのようにキャストや生活世界を画面に完璧に配置し美学的再現として展開する小津よりも、俳優の内なる魅力を舐めるように徹底的なカメラで追求する成瀬の方が、是枝の演出と近いと思っています。
とはいえこの作品は小津安二郎『東京物語』のような、伝統的な形態の家族の崩壊のドラマとなっています。それぞれ事情を抱えた血縁の繋がりのない人たちの擬似家族が、法の介入によって崩壊、胡散無償してしまう物語を描いています。
社会派より日常デッサンが光る演出家
以前、『海街diary』の記事でも書いたのですが、是枝という演出家は画面の構成力、演技指導に関しては素晴らしい才能を持っているものの、脚本、企画の膨らませ方、転がし方は浅薄で不器量です。『誰も知らない』『三度目の殺人』のような社会派の問題作風の映画も、週刊誌漫画、ゴシップレベルの陳腐な事実認識でコテコテ、脚本も締まりがなく、『空気人形』のような変化球も暴投になります。なので是枝はささやかな日常デッサンを描く作品に本領があるのですが、本作品は是枝では良くない路線の社会派です。
『万引き家族』も、やはり脚本が良くないのです。一見図式的にコテコテな事実認識なようでいて、方向性、テーマに存外絞りが効かせてないため、散漫になっていて訴えてきません。絵作り、キャストの魅力の描写という点ではこの作品でもやはり是枝の実力は発揮されているものの、消化不良という印象を残します。
フィクション世界
あらすじ
東京都心に暮らす柴田治と、その妻信代は息子の祥太、信代の妹の亜紀、そして治の母の初枝と同居しています。家族は治と信代の給料に加え、初枝の年金と、治と祥太が親子で手がける万引きで生計を立てています。しかし初枝は表向きは独居老人とされ、同居人の存在自体が秘密でした。
ある冬の日、治は近所の団地の1階にある外廊下で、1人の幼い女の子が震えているのを見つけ、連れて帰ります。夕食後、「ゆり」と名乗るその少女を家へ帰しに行った治と信代は、家の中から子どもを巡る諍いの声を聞きます。結局「ゆり」は柴田家に戻されます。体中の傷跡など「ゆり」に児童虐待の疑いを見てとる信代は彼女と同居を続けることを決め、誘拐ではないか指摘する亜紀に対して誘拐ではなく保護だ、と主張します。こうして「ゆり」は柴田家の家族となります。
その矢先、治は職場で負傷して仕事が出来なくなります。やがてテレビで失踪事件として報じられる、柴田家の一同はゆりの本当の名前が「北条じゅり」だと知ります。一家は「ゆり」の髪を切って「りん」という呼び名を与え、祥太の妹とします。回復した治は仕事に戻らず、祥太との万引きを「りん」に手伝わせます。
柴田家の面々は表向きは普通の家族として暮らしつつ、初枝はパチンコ店で他の客のドル箱をネコババし、祥太は「りん」を連れて近所のよろずやで万引きし、信代は勤め先のクリーニング工場で衣服のポケットから見つけたアクセサリーを盗んだり、亜紀を除く全員が犯罪に手を染めていました。
夏を迎える頃、祥太はいつものよろずや「やまとや」で「りん」に万引きをさせたものの、年老いた店主からお菓子を与えられ、妹にはさせるなよ、と言われます。やがて信代は勤め先から自分と同僚のどちらかの退職を迫られ、同僚との話し合いで「行方不明になっている女児を連れているのを見た」と脅されて退職します。一方初枝は前夫が後妻との間にもうけた息子夫婦が住む家を訪れ、前夫の月命日の供養ついでに金銭を受け取ります。そして初枝が義理の娘として同居している亜紀は実はこの息子夫婦の娘であると分かります。夫婦は亜紀は海外留学中ということにしていました。また亜紀には妹がいて、その名前は亜紀の源氏名と同じ「さやか」でした。その頃、「さやか」として性風俗店で勤務していた亜紀は常連客「4番さん」と交流していました。
その後、初枝は自宅で死去します。治と信代は自宅敷地内に初枝を埋め、最初からいなかったことにします。信代は死亡した初枝の年金を不正に引き出します。家の中から初枝のへそくりを見つけて大喜びする治と信代です。少しのち、祥太は「りん」とよろずやに行ったものの、「忌中」の紙が貼られ、閉店していました。その次に入った別のスーパーマーケットで、「りん」が自らの意思で万引きしようとしたところ、祥太は「りん」から注意を逸らすためにわざと目立つようにミカンを万引きして逃走します。店員の追跡をかわそうとするものの、高所から飛び降りて足を負傷、入院します。
一部始終を見届けた「りん」は治たちのもとに急ぐものの、柴田家4人は祥太を捨てて逃げようとしたところを警察に捕まり、家族は解体されます。「りん」は本来の親のもとに戻され、それ以外の3人は取り調べを受けます。入院中の祥太も警察官に事情聴取され、他の家族が逃げようとしたことを伝えられます。取り調べの中で、治と信代は過去に殺人をしたこと、治は初枝の実際の息子ではなく同居人としていたこと、祥太は治や信代に連れてこられたこと、治・信代・祥太らの名前は本名ではないことなどが明らかになります。信代は一家が抱えた犯罪は全て自分の犯行だとして刑に服し、祥太は施設に入り、治は一人暮らしとります。
治が「りん」=「ゆり」=「じゅり」を保護してから約1年後。学校に通うようになった祥太は成績も優秀で釣りに明るくなります。治は信代の依頼で祥太を連れて刑務所に面会に行きます。面会のとき信代は祥太に、治が松戸市にあるパチンコ店の駐車場で車上荒らしをした際に、密閉された車内に置き去りにされていた幼い祥太を連れてきたことを伝え、その気になれば本当の両親に会える、と話します。その夜、祥太は治の家に泊まり、自分を置いて逃げようとしたことの真偽を治に問うと、治はそれを認めて「おじさんに戻る」と答えました。
翌朝、祥太はバス停での別れ際に、わざと捕まったと治に話します。バスを追いかける治を車内から見つめる祥太は、治に何かを呟いたのでした。一方、本当の両親のもとへ戻された「じゅり」は、再び虐待をうけます。ある日、治に発見されたときと同じ外廊下で独り遊びをしていたところ、ふと塀から身を乗り出しつつ見入る「じゅり」も何かを呟こうとします。
登場人物
- 柴田治(リリー=フランキー):日雇い労働者。
テーマ
松竹の系譜を継ぐ監督らしく、「家族」がテーマになっています。伝統的な血縁的な共同体に対する負の側面が描かれると同時に、血縁のない他者との共感と共生の可能性に希望が見出されています。
関連作品、関連おすすめ作品
・アントン=チェーホフ『桜の園』、小津安二郎『東京物語』、太宰治『斜陽』:家族の没落、崩壊のドラマ



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