始めに
今日はカンヌにあやかって過去のパルムドール受賞作品『恐怖の報酬』についてレビューを書いていきます。
演出、ムード、ジャンル、背景知識
フリッツ=ラング、ヒッチコックを思わせる表現主義タッチのサスペンス
クルーゾー監督は、フリッツ=ラング(『M』)やアルフレッド=ヒッチコック(『見知らぬ乗客』)を思わせる、ウェットで暗い表現主義風のリアリズムを特徴とします。この作品においても、男たちの、同性愛にも似た精神的紐帯が描かれています。
オムニバスにおけるサスペンス
この作品は、ジョン=フォード監督『駅馬車』、アーサー=ペン監督『俺たちに明日はない』などのように、偶然同じ乗り物で時間を共有することになった人々の心理の展開を描いています。この作品において特徴的なのは、ニトログリセリンをトラックで運搬するという状況のため、常に一触即発の危険を男たちが共有することで、そんなサスペンスフルな状況の中での、男たちの軽蔑と信頼のドラマが展開されています。
シチュエーションの巧さ
この作品は、スピルバーグ監督『ジョーズ』のように、シチュエーションの設定が巧いです。ニトログリセリンを積んだトラックを走らせるという状況が、常に爆死と隣り合わせであるため、サスペンスの持続が観客の緊張を途切れさせません。
極限状況に置かれた男たちはそれぞれ自分の新しい一面を発露し、それにお互いが信頼や幻滅を描くプロセスが時間軸の中で展開され、観客の関心を保ちます。
フィクション世界
あらすじ
ベネズエラのラス=ピエドラスでは職が無く、食い詰めた移民達が暮らしています。マリオ(イヴ=モンタン)もその一人で、ホンジュラスから来たジョー(シャルル=ヴァネル)と意気投合して、弟分のような関係になっていました。ある日、油田で火事が起きました。石油会社は火を消し止めるためにニトログリセリンを500km先の現場までトラックで運ぶことに決め、2000ドルの報酬で募集して運ばせることにしました。選ばれたのは、マリオ、ジョー、ルイージ(フォルコ=ルリ)、ビンバ(ペーター=ファン=アイク)の4人でした。マリオとジョー、ルイージとビンバはそれぞれ組んでトラックを運転します。
道中は、悪路、転回困難な狭路、落石など、さまざまな障害が待ち受けます。マリオと組んだジョーは怖じ気づいてしまい、運転はマリオ任せにするようになります。「何もしないで2,000ドルか」となじるマリオに対して、ジョーは「2,000ドルは運転の報酬だけではなく、恐怖に対する報酬だ」と答えます。
なんとか障害を乗り越え、4人は目的地まで比較的安全な道だけを残します。しかし、前方を走っていたルイージとビンバのトラックが油断で爆発し、跡形もなくなります。爆発の影響で原油管が破損し、道の窪みに原油がたまります。マリオとジョーのトラックはそこを走り抜けようとするものの、その際に障害物をどかすためにトラックの前にいたジョーが轢かれ、片足に大怪我を負い、目的地に到着する直前でなくなります。
何とか任務を終えたマリオはジョーの分を含めて4,000ドルの小切手を受け取り、嬉々として帰路につきます。しかし、浮かれたマリオは運転を誤り、トラックは崖下に転落してマリオは死んでしまいます。
登場人物
- マリオ(イブ=モンタン):危険にあって、その真の逞しさを発揮するが…
- ジョー(シャルル=ヴァネル):危険を前にして剛毅なペルソナが外れ、馬脚を現す
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・スティーブン=スピルバーグ監督『ジョーズ』:極上の乗り物サスペンス
・ジョン=フォード監督『駅馬車』、マイケル=マン監督『コラテラル』:オムニバスもの
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