始めに
今日はカンヌ国際映画祭関連で、過去のパルムドールに輝いた邦画『楢山節考』をレビューしていきます。
演出、ムード、ジャンル、背景知識
今村昌平流リアリズム。
今村昌平監督は、西鶴、サルトル、ストリンドベリ、シェークスピア、黒澤明(『野良犬』)などのリアリズム的傾向を持つ作品から影響を受け、泥臭く生々しい描写を特徴とします。『豚と軍艦』など、時にそれは荒々しい迫力を持って観客に訴えかけてくる時もありますが、うまくいくときばかりでもありません。
この作品もまあ、可もなく不可もなくというか、ちょっと大味ですけれど、見応えはあります。
原作である深沢七郎『東北の神武たち』『楢山節考』
原作の深沢七郎といえば、独特のモダン趣味の光る作家で、映画や英米文学、南部ゴシック、超越主義の作家によく学んで、日本の農民文学、歌物語の系譜に新たな境地を築いた作家として知られます。
原作はホーソン『緋文字』やポー『アッシャー家の崩壊』のようなアメリカ文学を代表するジャンル、南部ゴシックの日本版のような内容です。南部ゴシックはゴシック文学のロケーションをアメリカ南部に移したジャンルで、封建的な土地柄における因習の中での実践の悲喜劇を描きます。本作や『笛吹川』もそれを前近代の日本に舞台を移したものになっております。
文体も軽妙でくだけた語り口の中にペーソスが滲むところに滋味が宿ります。深沢『楢山節考』はすでに巨匠・木下恵介による映画化があり、こちらがフォルマリスティックな語り口で原作のモダンなセンスを再現していたのですが、それに対抗しようとしたものか、本作品は性描写をふんだんに盛り込み生々しい世界観に演出しています。
それに加えて、『東北の神武たち』という作品も原作に取り入れています。これは東北地方の村で、次男以下はヤッコと呼ばれ嫁を貰えないしきたりになっていたところ、久吉という男の遺言に従ってその嫁がヤッコたちの相手をするという物語で、『楢山節考』という、「老いと死」を主題とする作品のアンチテーゼとして、「性と生」の主題を盛り込んだものと思われます。これは脚色として失敗しているとは思いませんが、そんなにはうまくいっていないというか、プロットが散漫になっている嫌いはあります。
木下恵介版と今村昌平版
流石に演出力に差がありすぎるので、完成度としては木下恵介版が遥かに上です。また原作のモダンなセンスも、木下恵介版の方がよく現れています。けれどもそれに対抗しようと懸命に創意を凝らそうとしている今村の意気込みは伝わってくるので、そこは評価しています。
フィクション世界
あらすじ
おりんは今年楢山まいりを迎えようとしています。楢山まいりとは七十歳を迎えた冬に楢山へ行くという貧しい村を守る為の掟でした。山へ行くことは死を意味し、おりんの夫、利平も母親の楢山まいりの年を迎え、その心労に負け行方不明となりました。
春。向う村からの使の塩屋が辰平の後添が居ると言います。おりんは安心して楢山へ行けると喜びます。辰平にはけさ吉、とめ吉、ユキの三人の子供とクサレと村人に嫌われる利助と言う弟がいます。
夏、楢山祭りの日、向う村から玉やんが嫁に来ます。おりんは玉やんを気に入り、祭りの御馳走を振舞います。そして丈夫な歯を物置の石臼に打ちつけて割ります。夜、犬のシロに夜這いをかけた利助は、自分が死んだら、村のヤッコ達を一晩ずつ娘のおえいの花婿にさせるという新屋敷の父っつあんの遺言を聞きます。
早秋、おりんらの家にけさ吉の嫁として、腹の大きくなった雨屋の松やんが混っていました。ある夜、目覚めたおりんは芋を持って出て行く松やんを見ます。辰平はもどって来た松やんを崖から落そうとしたものの、腹の子を思いやめます。
数日後、闇夜に「捕山様に謝るぞ!」の声があります。雨屋の父つっあんが焼松の家に豆かすを盗みに入って捕まったのでした。食料を盗むことは重罪、二代続いて楢山へ謝った雨屋は、泥棒の血統として、次の日の夜、男達に縄で縛られ生き埋めにされます。その中に松やんも居ました。新屋敷の父っつあんが死に、おえいは遺言を実行していたものの利助だけはぬかします。飼馬のハルマツに当り散らす利助を見かね、おりんはおかぬ婆さんに身替りをたのみます。
晩秋、おりんは明日山へ行くと告げ、その夜山へ行く儀式が始まります。夜が更けて、しぶる辰平を責め立てておりんは楢山まいりにむかいます。辰平は七谷の所で、銭屋の忠やんが又やんを谷へ蹴落すのを見て立ちつくします。
気が付くと雪が降っています。辰平は山を登り「雪が降ってきたよう! 運がいいなあ」と言います。おりんは黙って頷きます。
登場人物
- 辰平(緒方拳):母親思いの性格。おりんの子供。
- おりん(坂本スミ子):息子思いの性格。
- 利助(左とん平):辰平の弟。ヤッコとして、性欲を持て余している。
総評
ぼちぼちの及第点。見応えはある
大味ですが見応えはあります。興味を持ったら観るといいかもです。
関連作品、関連おすすめ作品
谷崎潤一郎『蘆刈』:母物語
参考文献
香取俊介『今村昌平伝説』(河出書房新社.2004)



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