始めに
押井守監督『スカイクロラ』についてレビューを書いていきます。
演出、背景知識
作家主義のトップランカー
押井守監督はたとえばタルコフスキー(『ストーカー』『惑星ソラリス』)、オーソン=ウェルズ、キューブリック(『時計じかけのオレンジ』)ばりの、作家主義の監督のトップランカーです。
タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』や『ストーカー』のように、原作という古典の形式に、作家の独特の解釈によって脚色を加える作風が、押井守の特徴です。
本作は概ね原作の設定やシチュエーションを踏まえつつも、オリジナル設定やストーリーを展開しています。
ループ、循環のモチーフ
三島由紀夫『豊饒の海』シリーズ(1.2.3.4)やサリンジャー『ナイン=ストーリーズ』などのモダニズム文学にも転生のモチーフはしばしば見えます。エリオット『荒地』が自然の循環のサイクルをテーマにしたことが大きく手伝っているでしょう。
本作もキルドレの転生という形で、転生のモチーフを効果的に用いています。
しらけ世代
押井守は全共闘という闘争と祝祭にコミットメントできなかったしらけ世代です。上の世代が経験した熱狂や狂乱を享受しないまま、しらけた空気の中で無為な日常を経験した世代です。
転生やループのモチーフが押井守の作品にしばしば現れるのは、そのような日常の逼塞感の象徴としての意味合いがあるためです。ヘミングウェイ『日はまた昇る』や漱石『門』に似た、日常の倦怠の物語が展開されていきます。
物語世界
あらすじ
ウリス基地に新しく配属された、戦闘機のエースパイロット、函南優一。そこにいたのは女性司令官の草薙、整備士の笹倉、同僚の湯田川、土岐野らです。笹倉以外は、思春期の姿のまま、永久に生きる特別な子ども達「キルドレ」です。
この世界では、人々が平和を実感するために「ショーとしての戦争」が合法的に行われます。その戦闘機のパイロットのほとんどが「キルドレ」で彼らは、他者に殺されることでのみ、死を得られます。さらに、一度死んでも、別人として生まれ変わります。
キルドレのパイロットである函南優一(かんなみゆういち)は、新たな赴任地にて整備士の笹倉(ささくら)に出会います。笹倉は女性で、前任者の機体を使うよう函南に告げます。
基地の司令官である草薙水素(くさなぎすいと)からも、前任者の機体を使うよう告げられます。草薙の外見は少女のようでした。
その後、函南は基地の食堂で湯田川(ゆだがわ)と篠田(しのだ)に会います。彼らも函南と同様に飛行機のパイロットのキルドレです。しばらくすると食堂の窓の外に、函南のパートナーとなる土岐野(ときの)が現れます。
次の日、函南は敵基地の偵察をする為土岐野と二機編隊で出撃します。二人が並行して飛んでいると、土岐野の機体が滝に突っ込んでいきます。操縦技術と判断力を試されているのでした。函南は機体を滝の手前で垂直に急上昇させ、その試験をこなします。
しばらくすると二人の前に敵機が現れます。函南も土岐野も敵機を撃墜し、無事帰還します。基地に着くと笹倉や他の整備員たちが生還を喜んでくれますが、函南は前任者の機体と相性が良かったのを意識します。
函南と土岐野は基地司令室へ行き、上官である草薙に戦況報告をします。報告後、函南は草薙にキルドレなのかどうかと尋ねたが、彼女は明確に答えません。
函南は土岐野にバイクの後ろに乗せられて、生還祝いと案内をしてもらう為基地から出ます。まず土岐野の行きつけの飲食店、ダイナーへ行き、二人はそこで店の住人である娼婦のフーコとクスミと過ごします。函南はミートパイを食べ、コーヒーを飲みます。初めて来た店のはずなのに、知っている味でした。
ダイナーを出た二人は、フーコ達が乗ってきた屋根のない車の後ろに乗って娼館へ行きます。館で函南はフーコに自分の前任者の話を尋ねるものの、要領を得ません。
函南が基地に戻り格納庫へ行くと笹倉がいます。函南は笹倉に前任者の「ジンロウ」について尋ねるものの、答えてくれません。
ある日草薙瑞季(くさなぎみずき)が基地にやってきます。瑞季は函南よりも幼い見た目です。函南は瑞季に一緒に遊んでほしいと頼まれ、基地を案内します。
瑞季が離れているとき、土岐野が来て函南に瑞季は草薙水素の娘だと教えます。函南のそばから土岐野が離れると、草薙水素がやってきてあの子はもうすぐ私に追い付くと言います。
函南はいつの間にか習慣になりつつあるダイナーへ赴きます。店に着いて食事を摂ろうとした時、外から飛行機の音が聞こえます。函南が店外へ飛び出し空を見上げると、敵部隊の姿がありました。函南は草薙に急いで連絡して基地に行きます。
湯田川が撃墜されます。編隊を組んで一緒に飛んでいた函南は黒豹のマークを目視します。それはティーチャーと呼ばれる機体でした。ティーチャーのパイロットはキルドレではない、大人の男だとされます。
草薙はティーチャーに拘り、戦いを挑み敗れます。しかし生存し、墜落した飛行機に乗っていた草薙を、フーコが助けて基地に連れてきます。
あるときパーティーらしき催しに出席させられるも、退屈だった函南は会場を抜け出します。外には土岐野もいました。二人で談笑していると三ツ矢碧(みつや みどり)がやってきて、二人に「函南優一は誰か」と尋ねます。函南は自分がそうだと返します。三ツ矢はこの辺りの地区の女性エースパイロットでした。
その日の作戦会議中、三ツ矢は草薙の視線が気になります。その後、敵の本拠地へ攻め込むという大作戦にて、篠田がティーチャーにやられます。
夜、函南は土岐野と街に出かけるも多くの店が閉まっています。たまたま草薙と合流して、唯一営業しているボーリング場へ向かいます。いつも通り冷めた目線の函南と草薙を見てあきれた土岐野はその場から去ります。
草薙と函南はボーリング場を後にして、ワインを飲みます。草薙は函南に「ティーチャーはキルドレとは違う大人であり、かつては私と同じ会社にいた」と説明します。そしてこの世界は、戦争というゲームを維持することで平和を保っており、そのゲームを維持するためにはルールが必要で、そのルールの一つが、絶対に倒せない相手ティーチャーなのだと教えます。
草薙と函南は車に戻ります。草薙は銃を持って「殺してほしい?それとも殺してくれるの」と訊きます。二人は車の中で抱き合いキスをします。
函南が食堂室に行くと、新たに赴任してきたアイハラという男がいました。アイハラは白い頭髪で、特徴的な新聞のたたみ方をしていました。
三ツ矢は函南の元に行き、知っていることや感じていることを話す。「キルドレ」が新薬につけられる名前であったこと、それがいつのまにか死なない人間、子供であり続ける人間につけられた名前になったこと、子供の頃の記憶がないこと、草薙はジンロウの人生を終わらせてあげるために彼を殺したこと、などです。
その晩、銃声が聞こえて函南は飛び起きます。草薙の部屋へ行くと、三ツ矢が彼女に向けて発砲したのでした。弾は草薙に当たっていません。三ツ矢は草薙に出て行くように言われ、去ります。草薙と函南の二人になると、彼女は「今度はあなたが私を殺してよ」といいます。
再び銃声が鳴りますが、誰にも当たりません。函南は「君は生きろ。何かを変えられるまで」と草薙に言うのでした。
函南達はいつものように空を飛びます。その時、黒豹のマークを付けた敵機を発見します。函南はティーチャーに挑みます。函南が乗る飛行機はボロボロになります。
基地では笹倉、草薙瑞季、草薙水素らが遠くの空を見つめていました。草薙水素だけはずっと函南の帰りを待っていたものの、機体が帰ってくることはありません。
ある日、新しいパイロットが着任します。パイロットが部屋に入ると、司令官である草薙は「草薙水素です。あなたを待っていたわ」と告げます。
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