はじめに
キャメロン監督『アバター』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
コーマン門下のSF活劇
ロジャー=コーマンの門下としてキャリアをつんだキャメロン監督は、やはり怪奇映画やSF映画の根本的なところを分かっているので、本作もすごく演出が完成されています。
ただとはいえ、演出力のピークは過ぎた感じで、チャップリン監督『ライムライト』のような、円熟と停滞は感じます。
文化人類学SF
フレイザー『金枝篇』がT=S=エリオット『荒地』に導入されて以降、作家は語りの手法に民俗学、社会学的アプローチをも積極的に取り入れるようになっていきました。特にアナール学派的な、中央の事件史に抗する心性史としての歴史記述のアプローチは、ポストコロニアルな主題を孕みつつ、ガルシア=マルケス『族長の秋』などラテンアメリカ文学などへと継承されていきました。ゴダール作品やコッポラ監督『地獄の黙示録』など、映画にもそうした潮流が影響していました。
本作においても文化人類学的なエッセンスが濃厚で、パンドラという先住民族とのコミュニケーションがアバターと呼ばれるガジェットを用いて描かれます。
東洋スピリチュアル。神話的象徴
モダニズム文学はまたT=S=エリオットの『荒地』などを皮切りに、フォークナー(『響きと怒り』)、ジョイス(『ユリシーズ』)、三島由紀夫(『奔馬』)、大江健三郎(『万延元年のフットボール』)など、神話的宗教的象徴の手法を取り入れるようになりました。これは神話の象徴として特定の対象が描写され、新しい形で神話や特定の対象が発見される機知が喚起する想像力に着目するアプローチです。こうした象徴的手法はジョセフ=キャンベルなどにも由来し、またハリウッドではキャンベルの文化人類学からクリストファー=ボグラーが脚本術として体系化します。このような流れのなかでモダニズム文学やその後続の文化にも宗教的な要素や神話的宗教的な象徴の手法が見えます。『マトリックス』シリーズ(1.2.3)など、それが顕著です。
本作においては人造生命体アバターという要素にはアヴァターラ(化身)のモチーフが見えます。
修正主義西部劇
本作はまた、ニューシネマ、公民権運動などを背景にした、修正主義西部劇のバリエーションと捉えられます。これは従来の家父長制的な世界観のヒーロー像への異議申し立てとして、マイノリティへのポジティブな表象などを様式的特徴とする西部劇です。『ダンス=ウィズ=ウルブズ』などが代表で、インディアンへのポジティブな表象がここに見えます。
本作もそれと同様に、パンドラの先住民族との交流が描かれます。
物語世界
あらすじ
アルファ・ケンタウリ系惑星ポリフェマス最大の衛星パンドラ。惑星の地下には、希少鉱物アンオブタニウムの鉱床があります。希少鉱物を採掘するため人類はパンドラに進出するも、パンドラにはナヴィという先住民族がいます。RDA社(資源開発公社)は資源の採掘を願い出るも、ナヴィ達は地球側の提示する条件にまったく関心を示しません。そこでRDA社は地球人とナヴィそれぞれのDNAを掛け合わせた人造生命体を作り、神経を接続するアバターとしてナヴィとの接触を図る「アバター計画」をスタートします。しかし、それでも交渉は進みません。
元海兵隊員のジェイク・サリーは、アバターの操作員だった兄が急死したため、RDA社から兄の仕事を引き継いでほしいと言われます。アバターは操作員各自のDNAに合わせて作られているため、ジェイクは一卵性双生児の兄とDNAが一致するので、兄のために作られたアバターを利用可能です。戦傷で下半身不随になっていた身体を治す治療代のため、ジェイクはRDA社の誘いに応じます。
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