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リドリー=スコット監督『ブレード=ランナー』解説あらすじ

1980年代
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始めに

始めに

今日はリドリー=スコット監督『ブレードランナー』についてレビューを書いていきます。『サイバーパンク2077』などに影響した、このジャンルの先駆的作品です。原作はディックです。

 

演出、背景知識

作家主義の映画。エポックメイキングな企画

 この映画の監督リドリー=スコットは、トニー=スコット監督の兄弟ですが、トニーがどちらかというと古典主義的なスタイルの活劇を(特に『エネミー=オブ=アメリカ』以降)展開するのに対して、リドリー=スコット監督はもっと企画屋としての才覚があり、作品の演出の内容や水準よりも、企画としてエポックメイキングな作品を狙っています。リドリー=スコット監督では『エイリアン』などはダン=オバノンが脚本に入っていることからちゃんと演出の映画になっているのですが、本作の演出は大味です。

 例えば印象としてはデミ監督『羊たちの沈黙』のように、後続の作品の方が面白く、洗練された内容になってしまっています。しかしジャンルへの試金石としては卓越した内容です。

まずアートワークの映画、テクノワール、サイバーパンク

 本作は、まずアートワークの映画です。シド=ミードの美術デザイン、ダグラス=トランブルのVFX、メビウスの衣装デザイン、ヴァンゲリスのシンセサイザーを効果的に使用した音楽など、作品を彩るアートワークや音楽は斬新かつ魅力的である一方、まずそうした世界観が肝である作品で、脚本にしても演出にしてもあんまりパッとしません。演出は特に見せ方がくどくて大味です。

 本作品のこうした様式はテクノワールと呼ばれる、ノワールとSFの混合的なジャンルで、大友克洋『AKIRA』やそのさらにフォロワーの松本大洋『鉄コン筋クリート』など、多くの追従者を産みました。SW4にも似た、退廃的で生活感のある、無国籍的な未来のビジョンが印象的です。

 また、人工知能をテーマとする本作はサイバーパンクの代表作とされています。『マトリックス』シリーズ(1.2.3)に受け継がれます。

アウトサイダーアート

 本作品はルトガー=ハウアー演じるレプリカントの独白は印象に残りますが、実際その後多くのフォロワーを産みました。松田優作の珍作『ア=ホーマンス』も有名ですが、あの手のネオチンピラ路線やポストコロニアルなアウトサイダーアートとしてのロボットものの先駆となりました。

 さらに本作の先駆けにはシェリー『フランケンシュタイン』がありますが、そうした要素は『デトロイト ビカム ヒューマン』へも継承されてます。カズオ=イシグロ『私を離さないで』にもポストコロニアルなテーマは見えます。さらに小島秀夫作品(MGSシリーズ[1.2.3.4.5])、『ロックマンX』シリーズ(1[無印,イレ].2.3.4.5.6.7.8)への影響も顕著です。

原作との比較

 原作はディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』です。ディックはドストエフスキーやジョイスに影響されつつ、独自の世界を展開しました。

 ディックに影響したドストエフスキーにはホフマンの影響で書かれた分身譚『分身』がありますが、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』も一種の分身譚となっています。アンドロイドという人間なる種の分身のモチーフは、ディックにとって切実な意味合いを持って描かれています。

 ディックには双子の妹・ジェーンがおり、彼女の幼少期の死が、家族とディック自身のトラウマとしてずっと残り続けたのでした。自分の分身のような双子の妹・ジェーンの死は、自分とは何者かという実存(自己の存在論)的な主題として、その人生と創作において中心的な位置を占め続けました。

 アンドロイドという存在によって人間とは何か、自分とは何者かを問い直される主人公・リック=ディッカードの苦悩は、そのままディック個人の苦悩となっています。アイデンティティを喪失した男の混乱の喜劇は『流れよ我が涙、と警官は言った』にも描かれます。

 なのでディックにとって重要な意味合いを持つテーマであり作品ですが、けれどもまあ、面白くはないのです。なぜかというと、スペキュレイティブフィクションとして、心の哲学的な洞察として、企画の着想や膨らませ方がベタベタすぎて、げんなりします。人工知能から、人間という計算機の存在論的洞察を展開するという発想があまりに陳腐です。本作品の主人公の思弁は少しも面白くないのです。

 他方で、映画化である本作は思弁的な要素をかなりオミットして活劇要素とアートワークを中心に作品を再構成しています。

物語世界

あらすじ

 21世紀初頭、遺伝子工学技術の進歩により、タイレル社はロボットに代わるレプリカントと呼ばれる人造人間を発明します。

 環境破壊により人類の大半は宇宙の植民地に移住、レプリカントは宇宙開拓の前線で過酷な奴隷労働や戦闘に従事していました。しかし彼らには次第に感情が芽生え、人間に反旗を翻す事件が発生。そのため、最新の「ネクサス6型」には、安全装置として4年の寿命に制限されますが、脱走し人間社会に紛れ込もうとするレプリカントが後を絶たず、地球へ脱走した彼らは違法な存在と宣告されます。そんな脱走レプリカント達を抹殺するのが、警察の専任捜査官「ブレードランナー」でした。

 2019年11月のロサンゼルス。地球は酸性雨が降り、高層ビル群が立ち並んだ人口過密の大都市があります。ネクサス6型レプリカントの一団がオフワールドで反乱を起こし、シャトルを奪い地球に帰還します。タイレル社に入り込んで潜伏したレプリカントの男女4名(ロイ・バッティ、リオン、ゾーラ、プリス)を見つけ出すため、ロサンゼルス市警のブレードランナーであるホールデンが捜査にあたっていたものの、負傷。上司であるブライアントはガフを使いに出し、退職していたリック・デッカードを呼び戻します。

 彼は情報を得るためレプリカントの開発者であるタイレル博士と面会し、彼の秘書レイチェルもまたレプリカントであることを見抜きます。レイチェルは人間だと思っていた自分の記憶が作られたものだと知り、アイデンティティに悩んで涙を流して飛び出します。そんな彼女にデッカードは惹かれます。

 デッカードは、リオンが潜んでいたアパートの証拠物から足跡をたどり、歓楽街のバーで踊り子に扮していたゾーラを発見、追跡して射殺します。現場にブライアントとガフが訪れ、レイチェルがタイレル博士のもとを脱走したことを告げ、彼女も「解任」するよう命令されます。その直後リオンに襲われ、駆けつけたレイチェルがリオンを射殺してデッカードは助かります。

 彼はレイチェルを自宅へ招き、彼女が自分のことも「解任」するのか問うと他の誰かがやるだろうと告げます。そしてレイチェルにキスし、熱く抱擁します。一方反逆レプリカントのリーダーであるバッティは眼球技師のチュウを脅して掴んだ情報から、プリスを通じてタイレル社の技師J・F・セバスチャンに近づき、さらに彼を介して本社ビル最上階にいるタイレル博士と対面します。バッティは自分たちの寿命を伸ばすよう依頼するものの、博士は不可能であると告げます。バッティは博士の眼を頭蓋ごと潰して殺し、セバスチャンをも殺して逃走します。

 タイレル博士とセバスチャン殺害を受けてデッカードは、セバスチャンの高層アパートで、部屋に潜んでいたプリスを射殺します。そこへ戻ってきたバッティと対決。バッティに押され、デッカードはアパートの屋上へ逃れ、隣のビルへ飛び移ろうとして転落寸前となります。しかし、寿命を悟ったバッティはデッカードを救い上げ、最期の言葉を述べた後、穏やかな笑みを浮かべて死にます。

 現場に現れたガフが不穏な言葉を告げ、デッカードはレイチェルを心配して自宅へ戻るものの、彼女は無事でした。デッカードはレイチェルと逃避行へと旅立つのでした。

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