始めに
北野武監督『座頭市』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
日活ロマンポルノ(神代、若松)流モダニズム、松竹ヌーヴェルバーグ、東映
北野武監督は俳優としてのキャリアが先ですが(大島渚監督『戦場のメリークリスマス』など)、大島渚などの松竹ヌーヴェルバーグやその先駆となったヌーヴェルバーグからの影響が顕著です。北野監督はカマトトぶる傾向がありつつ結構映画を観て消化してはいるのですが、とはいえタランティーノ(『パルプ=フィクション』)、スピルバーグ(『ジョーズ』『インディ=ジョーンズ』シリーズ[1.2.3.4])、黒沢清などと比べると映画史の全体性や体系性への理解は欠いていて、一般人のなかでは映画を観ている方だろうけど業界で誇れるほどたくさん観てないという印象があります。そのため本作における作家主義的意匠やメタな要素も滑っています。
とは言え演出力は『ソナチネ』など初期監督作から圧倒的で、神代辰巳監督などの日活ロマンポルノの最良の部分を受け継いでいる印象です。東映の工藤栄一監督を連想させる、ブレッソンやメルヴィルに習ったミニマリズムが特徴です。
また深作欣二に代表される東映の実録やくざ映画の影響が顕著で、虚無的なリアリズムが展開されていきます。
北野武版『必殺』である『アウトレイジ』シリーズを準備
『アウトレイジ』シリーズ(1.2.3)は北野武版『必殺』といった内容ですが、プログラムピクチャーの活劇に進出する契機は『座頭市』(2003)です。ここからして殺陣はキレキレなのですが、いいところも悪いところも勝新太郎監督『座頭市』(89)に似ていて、作家主義が滑っています。
そもそも『座頭市』シリーズが名作なのは初期だけで次第に若山富三郎版『子連れ狼』と大差ないゲテモノ映画になっていく印象ですが、北野版『座頭市』もまあまあ珍作ではあって、タランティーノ(『パルプ=フィクション』)やゴダール(『ゴダールのリア王』)ほど引き出しが多くはないことを再確認させられました。松本人志に似て、引き出し少ない人が変にメタなことをやって滑っている印象です。
勝新太郎監督『座頭市』(89)も全体的に作家主義が滑っていて、他方でアクションはキレキレなんですが、北野版の本作もそれとかなり近いです。
ただこの作品が北野にとってプラスになったのは実感するので全然悪い作品とは思いませんが。
タランティーノ、深作欣二の影響。アナクロニズム
本作品でまず顕著な影響を感じさせるのはタランティーノ監督の作品です。『キル=ビル』シリーズ(1.2)を思わせるバーレスク、象徴主義演劇、不条理演劇風のアナクロニズムが印象的です。とはいえタップダンスの演出など、全体的に滑ってはいるのですが、『キル=ビル』シリーズ(1.2)よりも殺陣は上手いです。
またアナクロニズムは深作欣二のスーパー歌舞伎風の伝奇映画の影響も感じさせます。
また金髪のスタイルとアナクロニズムは『戦場のメリークリスマス』で共演したデヴィッド=ボウイを意識しているのかもしれません。
ニューウェイヴ時代劇、マカロニ
また、本作品はフランコ・ネロ主演のマカロニウェスタンや、レオーネ監督のドル箱三部作(1.2.3)の影響を感じさせます。加えて、フランコ・ネロ主演のマカロニに影響された、『木枯し紋次郎』シリーズなどの、股旅物のニューウェイヴ路線の影響を感じます。
股旅物は長谷川伸の時代劇などに始まる道中記と時代小説のフュージョンで、『シェーン』などに影響したと言われています。マカロニウェスタンに影響した黒澤明監督『用心棒』がこのニューウェイブ股旅ジャンルの先駆でしょうか。
『用心棒』はハメット『血の収穫』の影響が顕著で、そのためフィルムノワールのモードと重なる様式ですが、本作『用心棒』もそのようなニヒリズムを感じさせます。
物語世界
あらすじ
盲目の剣客の市が、とある宿場町にやって来ます。町はやくざの銀蔵一家に支配されています。偶然知り合ったおうめの家に置いてもらった市は、賭場でおうめの甥である遊び人の新吉と出会います。博打に勝った二人は、芸者の姉妹に襲われます。二人は幼少時に盗賊に両親を殺害され、その仇を探してました。一方、浪人の源之助夫妻もこの町に来ていて、銀蔵一家の用心棒を務めています。町の飯屋で市と源之助は出会い、互いに相手の力量を知ります。
ある日、市は賭場の博打のイカサマを見抜いたため、やくざと争います。やがて姉妹の親の仇が銀蔵と扇屋の主人だと判明し、姉妹は銀蔵の家に襲撃します。座頭市は、手下の軍勢を刀で切り裂き、ヤクザの用心棒である源之助を決闘で打ち負かします。
その後、市は街に出てヤクザの親分たちと対峙します。不意を突いて目を開き、老親分の目を潰し、盲目にした後、殺します。
映画は、タップダンスで締めくくられ、市が小道を歩いている途中で岩につまずき、「目を見開いても見えないものはみえない」と呟く場面で幕を閉じます。
参考文献
・”Revolution of the MInd:The Life of Andre Breton”
コリン・マッケイブ著 掘潤之訳『ゴダール伝』(みすず書房,2007)
岩淵達治『ブレヒト』(清水書院.2015)



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