始めに
始めに
今日はカンヌ国際映画祭にあやかって、パルムドール受賞作、黒澤明監督『影武者』についてレビューを書いていきます。
演出、ジャンル、ムード、背景知識
ロシア文学(トルストイ、ドストエフスキー)のリアリズムの影響
黒澤明の作品の基調はトルストイ(『戦争と平和』)、ドストエフスキー(『罪と罰』)といった、ロシア文学のリアリズムです。代表作『七人の侍』など、グロテスクなまでのリアリズムで民衆の姿を活写し、そこにはトルストイやドストエフスキーの最良の部分が現れています。
この作品においても、武田信玄の影武者に焦点を当て、その顛末を描きながら戦国時代の動乱をダイナミックに描いています。
演出力は五〇年代がピーク
しかし、黒澤明の演出力は五〇年代がピークで、以後は右肩下がりな傾向があります。黒澤明は助監督、脚本家としての最初期のキャリアの仕事もピカイチで、とにかく映画作りの基礎技能が地味に高いのです。けれども、国際的な名声が高まるにつれて、演出は大仰で、キレの悪さも目立つようになっていってしまいます。
『影武者』においてもその傾向があり、時に画面の圧倒的な迫力に感銘は受けはしますが、脚本もテンポが悪く、演出もムラがあります。
時代劇
黒澤明を代表するのは、なんといっても時代劇、歴史劇です。幼少期の西部劇体験に裏付けられた時代劇は、ジョン=フォードの西部劇のように、細部に滋味を宿します。『影武者』も、演出家として老いたりといえどもさすがは黒澤と思わせられるところはあり、見応えのある内容です。
フィクション世界
あらすじ
1573年、武田信玄が暗殺されてしまいます。そこで死刑になるはずであった盗人が、武田信玄の影武者とされる運びとなり…
登場人物
- 影武者(仲代達矢):武田信玄は襲撃され命を落としますが、遺言として、しばらく自身の死は秘匿することと命じました。影武者は信玄への憧れも手伝って、その役を志願します。
テーマ
「反戦」が作品のテーマになっています。トルストイの『戦争と平和』のように、民衆の生々しい伝記的生を活写し、それを権力による動員、精神的支配によって隷属させる戦争という現象を批判的に描いています。
総評
水っぽい。けれど見応えはある
見応えはあります。けれども黒澤作品の中ではあまり上位の作品ではないです。
関連作品、関連おすすめ作品
・『The Last Of Us part2』:他者の伝記的生を思いやることを共感や利他的行動の起源と見て、暴力を抑止する規範とみなす
参考文献
・藤沼貴『トルストイの生涯』(第三文明社.2019)
・堀川弘通『評伝 黒澤明』(筑摩書房.2000)



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