はじめに
塚本晋也監督『鉄男』解説あらすじを書いていきます。
演出、背景知識
新古典主義
本作品の演出家・塚本晋也は卓越した新古典主義者です。アートワールドの中の既存のスタイルの歴史にアクセスし、独自の演出を構築しています。本作品においてもドイツ表現主義、ハマーフィルム、ロジャー=コーマンの怪奇映画作品、東映や東宝の怪獣特撮映画などに対するオマージュが随所に見えます。
アート映画の前史としてT=S=エリオット『荒地』、ジョイス『ユリシーズ』などの新古典主義の作品がありますが、そうした古典主義はゴダール(『ゴダールのリア王』)やトリュフォー(『アデルの恋の物語』)に受け継がれ、さらにその後、クローネンバーグ(『クライムズ=オブ=ザ=フューチャー』)、リンチ(『ブルー=ベルベット』)、黒沢清(『CURE』)、塚本晋也などへと継承されました。
シュルレアリスム、ロマン主義、幻想文学(カフカ)
アート映画にはコクトーも関係しているなど、その成立にはシュルレアリスムからの影響が顕著でした。本作品もシュルレアリスムからの影響を窺わせます。シュルレアリスムはランボー、ゴーゴリ(「鼻」「外套」)、カフカなどの幻想文学など、経験的な物理法則や素朴な物理的直感や知見を裏切るこうしたジャンルに着目し、既成の芸術やブルジョワ社会へのアンチテーゼとして捉えました。川端康成『みづうみ』もこうしたモードの中にあります。
本作品もカフカ『変身』を思わせる、主人公二人の肉体の変容が描かれていきます。不条理な状況下で衝突する二人の戦いが見どころです。またカフカの影響が顕著な安部公房(『砂の女』『箱男』)の変身譚からの影響も見えます。クローネンバーグ監督『クライムズ=オブ=ザ=フューチャー』とも、この辺りが重なります。
諸星大二郎(『生物都市』)の影響
塚本晋也は諸星大二郎作品の映画化を手がけていますが、本作も諸星からの顕著な影響が見えます。諸星大二郎もブラックウッド、ラブクラフト、M.R.ジェイムズなどの古典的ホラーのスタイルをよく学んだ、塚本に勝るとも劣らない新古典主義者です。
本作は特に諸星『生物都市』の影響が顕著です。これは198X年、木星の衛星イオの調査から宇宙船ヘルメス=3が地球に帰還したところ、イオで異星人のものと思われる生きている遺跡と接触したヘルメス=3の調査員、ヘルメス=3の船体から広がるように金属類と生物が溶けるように融合してゆく現象が起こるという内容で、本作の変身と重なります。
物語世界
あらすじ
「やつ」は自らの体に肉体改造を施し、失敗。蛆のわいている自分の脚に驚き、外に飛び出した瞬間に車に轢かれます。
平凡なサラリーマンである「男」はある朝に自分の頬から金属片が出ているのに気が付きます。彼は自分の体が次第に鉄化していくのでした。全ては男が車で轢き、山林に遺棄した「やつ」の復讐でした。
やつは復讐を果たすため、金属テレパシーで放ったイメージで男を弾き飛ばします。しかし、金属と完全に融合したはずのやつでしたが、体内に組み込まれた金属棒が錆びて腐り始めます。やつは最後のエネルギーを振り絞り、鋼鉄の塊と化した男は反撃します。
しかし、やつと男は憎悪と愛情の背反した力で融合し、ひとつの巨大な金属の怪物となります。世界中を鋼鉄化し、錆び腐らせてやろうと怪物は夜明けの都市を疾走します。
参考文献
・”Revolution of the MInd:The Life of Andre Breton”



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