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成瀬巳喜男監督『浮雲』解説あらすじ

1950年代解説
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はじめに

 成瀬巳喜男監督『浮雲』解説レビューを書いていきます。

演出、背景知識

松竹蒲田調を代表する詩的リアリズム

 成瀬巳喜男は木下恵介(『楢山節考』)、小津安二郎(『東京物語』)などとならんで、松竹蒲田調を代表する監督として知られています。成瀬巳喜男は詩的リアリズムのモードやジョン=フォードなどのメロドラマのスタイルを継承し、舐めるようなカメラの眼差しでキャストの内なる魅力に迫っていきます。

 松竹映画のモードを継承する是枝裕和監督(『万引き家族』『海街diary』)も、成瀬からの影響が顕著ですが、溝口健二のスタイルと並んで、堂々たるキャノンとしてのメロドラマのスタイルが展開されています。

トルストイのリアリズムの最良の部分を継承

 黒澤明監督『七人の侍』と感じる印象と近いですが、とにかく松竹のリアリズムのベースにあるロシア文学、とくにトルストイ(『戦争と平和』)のコンセプトの最良の部分を継承していると評価できます。

 トルストイはクリミア戦争における従軍経験があり、それに由来する反戦思想と農奴制への批判的な発想が起こりました。カフカース地方での生活とクリミア戦争への従軍経験が民衆の偉大さを発見し、それを搾取する構造を持つ戦争という事象と、農奴制に抗いました。トルストイはルソーの自由主義思想の影響も大きく、それが反戦にもつながっていると思われます。

 トルストイはそこから、民衆の生を丹念に活写するリアリズムを展開していきました。『戦争と平和』も民衆の偉大なる生を描いています。

 同様に成瀬も、そのリアリズムにおいてキャストの内なる魅力を丹念なカメラづかいで描写していきます。舐めるようなカメラによって、俳優の偉大な生をダイナミックに展開します。

物語世界

あらすじ

 戦時中の1943年、農林省のタイピストとして仏印へ渡ったゆき子は、農林省技師の富岡に会います。やがて富岡に妻が居ることを知りつつ2人は関係を持ちます。終戦を迎え、妻・邦子との離婚を宣言して富岡は先に帰国します。

 後を追って東京の富岡の家を訪れるゆき子ですが、富岡は妻とは別れていませんでした。ゆき子は富岡と別れ、米兵の情婦になります。しかし結局2人はよりを戻します。

 終戦後の混乱した経済状況で富岡は仕事が上手くいかず、米兵と別れたゆき子と伊香保温泉へ旅行に行きます。当地の「ボルネオ」という飲み屋の主人、清吉と富岡は意気投合し、2人は店に泊まります。清吉には年下の女房おせいがおり、富岡はおせいとも関係を結びます。ゆき子はそれに気づき、2人は伊香保を去ります。

 妊娠が判明したゆき子は再び富岡を訪ねるものの、富岡はおせいと同棲しています。ゆき子はかつて貞操を犯された義兄の伊庭杉夫に借金して中絶します。術後の入院中、ゆき子は新聞報道で清吉がおせいを絞殺した事件を知ります。

 ゆき子は新興宗教の教祖になった伊庭を訪れ、養われます。そんなゆき子の元へ富岡が現れ、邦子が病死したことを告げます。

 富岡は新任地の屋久島へ行くことになり、ゆき子も同行します。船内で医者からは屋久島行きを止められるものの、ゆき子は無理強いします。しかしゆき子の病状は悪化します。

 豪雨の日、勤務中の富岡に急変の知らせが届くものの、駆けつけた時には既にゆき子は死んでいます。

 富岡は泣きながらゆき子に死化粧します。

参考文献

・藤沼貴『トルストイの生涯』(第三文明社,2019)

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