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オーソン=ウェルズ監督『市民ケーン』解説あらすじ

1940年代
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始めに

オーソン=ウェルズ監督『市民ケーン』について解説あらすじを書いていきます。

背景知識、演出

フォルマリズム、モダニズム文学(コンラッド)

 オーソン=ウェルズ監督はヒッチコックとならぶフォルマリストとして知られ、ヌーヴェルバーグの監督にも影響しました。対象をカメラにありのまま捉えようとするよりむしろ、フレームの効果を生かした技巧的な演出が光ります。

 また元々ウェルズ監督はコンラッド『闇の奥』の映画化の構想を抱えておりそれが頓挫して本作に繋がっているため、コンラッドの非線形の語りからの影響が顕著です。映画制作のための取材を図る記者ジェリー=トンプソン(ウィリアム=アランド)に主な焦点化が図られ、彼の取材した内容が物語られていきます。取材という体裁で、語りの主体や語られる対象の時間的位相が目まぐるしく移ります

コンラッド流リアリズム

 本作品は語りの構造においてだけでなく、主題の上でもコンラッドからの影響が顕著です。コンラッドはフローベール(『ボヴァリー夫人』『感情教育』)やその弟子モーパッサン(『脂肪の塊』『女の一生』)のリアリズム文学、自然主義文学を好みました。フローベール『ボヴァリー夫人』的な、ブルジョワ社会における自己実現をめぐった栄光への野心と破滅の主題は、『闇の奥』においてもクルツの絶頂と破滅という形で継承されています。

 本作もブルジョワ社会でクルツの如き絶頂を極めた新聞王ケーンの孤独と破滅が描かれます。コンラッドのフォロワーにスコット=フィッツジェラルドがいますが、フィッツジェラルド『偉大なギャッツビー』を連想します。

ゴシップ的魅力

 本作にはモデルがいて、W.R.ハーストがケーンをもとになっています。

 そして「バラの蕾」は作中では両親との幸福で無垢な過去への思慕として描かれていますが、実際には愛人の女性器を意味するものでした。このようなゴシップ的な魅力が本作の魅力です。

薔薇の蕾

 ケーンの遺言「バラの蕾」は作中の重要な謎で、これを巡って展開される物語ですが、これは両親との貧しくも幸福で無垢な過去への思慕の象徴として、最後に明かされます。

 ケーンは新聞王として、ブルジョワ社会で成功したものの、幼少期に両親と引き離されてから、人間らしい繋がりは、最後まで誰とも持つことができず、孤独のなかで死んでいきます

物語世界

あらすじ

 暗く荒廃した大邸宅「ザナドゥ城」ので屋敷の主、新聞王チャールズ=フォスター=ケーンが小さなスノードームを握りしめ、「バラのつぼみ」という謎の言葉を残して亡くなります。

 ある会社が彼の生涯をまとめたニュース映画を制作しようとするものの、その内容に不満を持った経営者ロールストンは、編集のジェリー=トンプスンに「バラのつぼみ」という言葉の意味を突き止めケーンの人物像を探るようにと命じます。トンプスンはケーンに近かった5人の人物、2度目の妻で元歌手のスーザン=アレグザンダー、後見人の銀行家サッチャー、ケーンの旧友であり新聞社「インクワイラー」でのパートナーでもあったバーンステインとリーランド、ザナドゥ城の執事を順に訪ねながらケーンの歴史を紐解きます。

 ケーンの両親は下宿屋を営んでいたものの、ある時、宿泊費のかたに取った金鉱の権利書により、その名義人である母親は大金持ちとなります。母親は、ケーンをニューヨークの銀行家サッチャーに預け、彼に運用を任せた資産をケーンが25歳になった時に全て相続させようとします。

 幼いケーンは、両親から無理やり離されニューヨークで育ちます。25歳になり莫大な資産を相続したケーンはサッチャーを遠ざけ、友人のバーンステインとリーランドを引き連れ、買収した新聞社「インクワイラー」の経営に乗り出します。これにより廃業寸前の弱小新聞社であったインクワイラーの部数はニューヨークでトップとなります。

 ケーンは大統領の姪と結婚するものの、妻と次第に不仲に。そんな折、歌手を目指すスーザンにケーンは心を奪われます。そしてケーンは労働者達の為に政治家になるのだと宣言しニューヨーク州知事選挙に出陣。圧勝かと思われたケーンですが、ライバルのゲティスは愛人スーザンのことを知り、知事選の前日にケーンと妻をスーザン宅に呼び、出馬を辞退するよう脅します。ケーンは要求を断るものの、ニューヨーク中のメディアにスキャンダルを報道され、教会をも敵にして、ケーンは敗北します。妻と息子もケーンの元を去ります。

 その後スーザンと結婚したケーンは彼女を立派な歌手にせんと巨大なオペラハウスを建てますが、スーザンには歌手の才能がありまそんでした。彼女の初舞台は失敗するもののインクワイラーは社を挙げて盛り上げようとします。しかし劇評を担うリーランドは彼女を酷評する記事を作成。そしてケーンは、自らその続きの悪評をタイプしました。

 そんな中、スーザンは歌手をやめたいと訴えるものの、ケーンは一蹴。やがてスーザンは鎮静剤を大量に服用し倒れます。懇願するスーザンにケーンも歌手をやめる事を認めます。

 ケーンはニューヨークに嫌気が差し、郊外に荘厳な大邸宅、「ザナドゥ城」を建てて移り住むものの、ケーンと2人の生活にスーザンは嫌気が差し、出ていきます。ケーンは彼女の部屋にある物全てを破壊していくものの、スノードームを見つけるとそれを握りしめます。

 時は流れ、年老いたケーンは孤独に死にます。トンプスンはザナドゥ城まで取材にやってくるものの、誰も「バラのつぼみ」の意味を分かりません。

 しかし、ケーンの遺品が燃やされていくその中に、幼きケーンが遊んだソリがあります。そのそりには「ROSEBUD(バラのつぼみ)」のロゴマークが印刷されていました。

参考文献

・”Citizen Welles: A Biography of Orson Welles”

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