はじめに
コクトー監督『美女と野獣』あらすじ解説を書いていきます。
演出、背景知識
シュルレアリスムと映画。幻想文学
コクトーはシュルレアリスムを代表する作家です。
有名な『アンダルシアの犬』など、シュルレアリスムは映画とも連動して展開していったので、コクトーも自ら映画を監督しています。
シュルレアリズムにおける代表格のアンドレ=ブルトンは実在の若い犯罪者に着目するなど、既存のモラルや法を相対化する存在を追求するアウトサイダーアート、カウンターカルチャーを展開しました。本作もアウトサイダーの野獣とベルの恋を描きます。
またブルトンは経験的な物理法則や素朴な物理的直感を裏切る要素を孕む幻想文学(カフカ、ゴーゴリなど)に着目し、既成の芸術やブルジョア社会へのアンチテーゼとしてそれを捉えました。本作もまた、童話の幻想文学を原作にします。
古典主義、心理主義、モダニズム
コクトーは、ジャン=ロラン、ワイルド、ロスタン、ダンヌンツィオ、ミュッセ、ボードレール、ヴェルレーヌ、フルニエ、スタンダール、ラファイエット夫人、コンスタンなど、古典主義、ロマン主義、象徴主義、心理小説から影響を受けました。
特にフルニエ『モ―ヌの大将』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』、スタンダール『パルムの僧院』、コンスタン『アドルフ』を評価し、その古典的スタイルに影響されました。
ジッドとも親しくし、そのモダニズムや心理劇に影響しました。
原作
ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモンが1757年に執筆し、童話アンソロジーの一部として出版された『美女と野獣』が本作の原作です。
おおむね原作通りですが、サブ的な展開が結構違っています。原作では登場人物はベルとその父と野獣、妖精くらいですが、ベルの家族を中心に登場人物が増えています。ベルの兄リュドヴィクとその友人アヴナン、ベルの2人の姉アデレードが悪役になり、姉二人はフェリシー城でのベルの豊かな生活をねたんでベルが野獣から授かった金色の鍵を盗んで、リュドヴィクとアヴナンを野獣に対抗させようとします。アヴナンとリュドヴィクは、独自に野獣を殺そうとし、最終的にアヴナンは野獣の館の宝庫のガラスの屋根を壊して押し入り、ローマの女神ディアーナの命が吹き込まれた像に矢を射られて野獣になってしまいます。
「アヴナン」をベースにして、有名なディズニーヴィランのガストンが成立しました。
物語世界
あらすじ
ベルが自宅で床をこすり洗いしているのを見て、彼女の兄リュドヴィクの友人アヴナンが求婚します。しかし、ベルは家で父の世話をしたかったため、アヴナンを拒絶します。ベルの父は全財産を掛けた船の一団が難破して、無一文になりかけていましたが、一隻だけ助かったので、ベルの2人の姉アデレードとフェリシーへのプレゼントを約束します。ベルに欲しいものを聞くと、薔薇が欲しいといいます。
しかし、ベルの兄リュドヴィクは、高利貸しに借金を支払うことができないならば父が肩代わりする契約にサインしてしまいます。その後、ベルの父は港に到着するや財産はリュドヴィクの負債を清算するために押収され、失意の中、夜に森を通って帰宅します。
ベルの父は森で道に迷い、門がある大きな城にたどり着きます。その門とドアが自ら開き、城に入ると、魔法をかけられた枝つき燭台がごちそうを載せた食卓に案内して、ベルの父はそれを食べ、寝入ってしまいます。
その後、大きな唸り声で起こされたベルの父は、城の庭を歩き回ります。ベルがバラを求めていたのを思い出して、バラを木からむしり取ると、野獣が現れます。野獣は彼を盗殺すと脅すものの、娘の一人が身代わりになれれば見逃すと言います。
野獣は、父を家まで案内させるためにマニフィックという白馬を貸します。家に戻ったベルの父が状況を家族とアヴナンに説明すると、ベルは父の身代わりになるといいます。
ベルはマニフィックに乗って城に行き、野獣を見つけ、その姿を見て気絶し、城の居室に運ばれます。目覚めたベルは、何でも見ることができる魔法の鏡を見つけます。
野獣はベルを夕食に招待し、やがて毎日彼から結婚を懇願されます。日が経つにつれ、ベルはだんだんと野獣に惹かれるめのの、結婚を拒否し続けます。
ある日魔法の鏡を使って、ベルは父が瀕死の病であることを知ります。野獣はベルに1週間戻る許可を与え、ベルに二つの不思議な道具を与えます。それは、ベルがどこにでも行くことができる手袋と、野獣の本当の富のもとであるディアーナの宝庫の錠を開ける金色の鍵でした。
ベルは父の部屋に行くため手袋を使います。ベルの訪問は、父を回復させます。ベルは、家族が貧しい生活をしていて、リュドヴィクがした高利貸しとの取引きが響いていると知ります。
城でのベルの豊かな生活をねたんで、アデレードとフェリシエは金色の鍵を盗んで、リュドヴィクとアヴナンを野獣に対抗させようとします。アヴナンとリュドヴィクは、独自に野獣を殺す計画を考え、ベルの姉たちを援助しようとします。ベルを引きとめさせるために、ベルの姉たちは彼女をだまし、期限の1週間以上滞在させようとします。ベルは、しぶしぶ同意します。
すると野獣はベルを取り戻すために魔法の鏡とマニフィック号を送ります。リュドヴィクとアヴナンがマニフィック号を先に見つけて、それに乗って城に行きます。ベルは、その後、魔法の鏡が野獣の悲しい顔を映すのを見ます。鏡が壊れたときベルは金色の鍵をなくしたことに気づきます。
ベルは取り乱し、魔法の手袋で城に戻り、中庭で傷心から瀕死になった野獣を見つけます。一方、アヴナンとリュドヴィクは、ディアーナの宝庫に出くわします。盗んだ鍵では罠を起動させるかもしれないと思って、宝庫の壁をよじ登ります。
野獣がベルの腕の中で死んだ時、アヴナンはその宝庫のガラスの屋根を壊して押し入り、ローマの女神ディアーナの命が吹き込まれた像に矢を射られて野獣になります。またベルを恋して死にそうだった野獣は、アーデント王子に変身します。 実は両親が精霊を信じなかったので精霊は彼を野獣の姿に変えたが、愛してくれる女性が現れたために人間に戻れたのでした。
王子は再びベルに求婚し、ベルがほほ笑むと、二人は宙に浮き、夜空に浮かび上がります。
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