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フィンチャー監督『ファイト=クラブ』解説あらすじ

1990年代解説
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はじめに

フィンチャー監督『ファイト=クラブ』解説あらすじを書いていきます。

演出、背景知識

ウェルズ、ヒッチコック風のフォルマリズム

 フィンチャー監督はこの作品の以前からキャリアがありますが、本作品でスタイルを確立しました。『セブン』『エイリアン3』『ゲーム』などの習作を抜け出て、本作で洗練されたフォルマリスティックな語り口を体得します。イーストウッドにおける『ミスティック=リバー』みたいな感じです。

 ウェルズ(『市民ケーン』)やそれに影響したコンラッド文学(『闇の奥』)へのオマージュは『ソーシャル=ネットワーク』『マンク』に、ヒッチコックへのオマージュは『ゾディアック』などに見えますが、二人に似た洗練されたフォルマリズムが特徴的です。また、この二人と同様に文学的素養も相当なもので、本作もパラニュークの文学が原作です。

男性性をめぐる言説。有害な男らしさ

 本作のモードはやや見えにくいですが、過去の男性性を巡る言説を踏まえるものです。旧来(50年代以前)、ハリウッドのポップカルチャーが喧伝する理想の男のモデルとは家父長制のなかでの、父親としての役割でした。ケーリー=グラントのような、タフで優しい男が理想とされ、そうしたマチズムはしばしばリキテンスタインなどのポップアートの攻撃の対象になりました。

 やがて60年代頃からカウンターカルチャーの時代に入ると、ビートニクの文学、ニューシネマなどに描かれるように、荒々しく反権威的で繊細な主人公が現れるようになります。

 こうした中、神話的男性運動というマスキュリズムの運動が起こり、神話にあるような元来の父親としての男らしさを復活させ、ポップカルチャーに描かれる「有害な男らしさ」を排斥しようとする保守的なムーブメントが起こります。

 本作において現れるタイラー=ダーデンは、この「有害な男らしさ」を体現する存在です。

資本主義の自爆装置。ポップアート

 つまるところ本作におけるタイラー=ダーデンは資本主義のなかのポップカルチャーから出てきた、資本主義の自爆装置のような存在です。

 ポップアートはポップカルチャーの表象を引用しつつ既成の芸術やブルジョア社会へのアンチテーゼを展開しましたが、そのようなコンセプトを本作においても踏まえており、またこの辺りはボードリヤールというマルクス主義社会学者の影響も大きいです。

 資本主義から出てきた有害な男らしさの権化たるタイラー=ダーデンは、そのマチズモとカリスマ性からカルト的コミュニティを形成し、資本主義を果敢に攻撃します。

マルクス、マルクス主義

 本作は全体的にマルクスの共産主義、マルクス主義の影響が顕著です。

 本作における主人公の成長のプロセスというのは、大衆消費社会のなかで物質と仕事に支配され疎外に置かれていた主人公が、資本主義の自爆装置のようなタイラー=ダーデンの暴力性に惹かれるもそれを克服し、マルクス的な利他と共愛、共有に自己実現の余地を見出す形で締めくくられる内容になっています。この辺りはドストエフスキー『罪と罰』と重なりますが、結局は日常的伝統的な実践へのコミットメントに救いが見出されます。

タナトス

 本作は精神分析の影響が強く、語り手の分身たるタイラー=ダーデンは、語り手の無意識やタナトスの象徴のような存在です。

 タナトスとは、フロイトが提唱した、人間が生まれながら持っている暴力性や自殺衝動の由来的な欲求で、これは村上春樹『海辺のカフカ』、黒沢清『CURE』などに現れます。

ドストエフスキーの影響。分身譚

 本作はドストエフスキー『分身』を思わせる分身譚になっています。謎の男、タイラー=ダーデンの正体が、主人公の別人格だった、というオチは有名です。

 『分身』はホフマン、ポーからの影響が顕著で、ドッペルゲンガーの出現というファンタジックなシチュエーションから展開される心理劇でしたが、本作もそのような幻想的なモチーフを上手くリアリズムと調和しています。

物語世界

あらすじ

 大手自動車会社に勤務する「僕」(エドワード=ノートン)は不眠症に悩んでいます。高級コンドミニアムの自宅にはブランド製品を買い揃え、物質的には何不自由ない生活ですが、症状は改善しません。

 精神科の医者は、世の中にはもっと大きな苦しみがあると言い、睾丸ガン患者の集いを紹介します。そこで「僕」男たちの悲痛な告白を聞き、慰めの言葉に感極まって涙を流します。すると、その夜は深い眠りにつくことができました。

 これが癖になった「僕」は末期ガン患者や結核患者などの自助グループに偽の患者として通うようになります。ある日、睾丸ガン患者の集いでマーラ=シンガー(ヘレナ=ボナムカーター)が現れます。「僕」は様々な自助グループでマーラを見かけるようになり、彼女という異物が存在することで泣けなくなり、不眠症に陥ります。やがて二人はお互いの参加する自助グループを分けて妥協します。

 あるとき「僕」は、飛行機で石鹸の行商人タイラー=ダーデン(ブラッド=ピット)と出会います。本気になれば家にある物でどんな爆弾も作れると語る彼に好感を抱きました。

 「僕」が出張から帰ると、自宅では爆発事故が発生していました。「僕」の手元にはアタッシュケース1つと、マーラとタイラーの連絡先だけが残ります。「僕」はタイラーに助けを求め、バーで酒を酌み交わします。タイラーは「僕」を自宅に泊めることを認めますが、代わりに自分を殴れと頼んできます。2人は駐車場で本気で殴り合った後、廃墟の邸宅で共同生活を始めます。

 2人は駐車場での殴り合いを度々行うようになり、それを見ていた酔っ払いも殴りあいに参加し始めます。『僕』にとって殴り合いは癒しとなり、殴り合いが行われる土曜日の夜が待ち遠しくなります。やがて殴り合いの場はバーの地下室へと移り、大勢の男達が集まって1対1のファイトを行う秘密の集まりになります。集まりはファイト=クラブと名付けられ、ルールが設定されます。最も重要なルールが「ファイト=クラブのことを口外しない」ことです。ファイト=クラブでは強さこそが全てでした。

 ある日、『僕』が自助グループから姿を消したことに気付いたマーラから電話がきます。『僕』は睡眠薬を大量に飲んだマーラの長話を嫌い、受話器を放置して外出しますが、翌朝になると邸宅にはマーラがいます。『僕』がマーラに「なぜここにいるのか」と尋ねると、彼女は『僕』を非難して去ります。入れ替わりに現れたタイラー曰く、受話器からマーラの声がしたので応答し、彼女を自宅から連れて肉体関係を持ったそうです。これを切っ掛けにタイラーは「誰にも俺のことを話すな」と『僕』に約束させ、それから『僕』はタイラーとマーラの性行為の音に悩まされます。その頃、警察からの連絡を受けた『僕』は、自宅の爆発が誰かの自家製爆弾によるものと知ります。

 タイラー主導で高級痩身クリニックのゴミ捨て場から人間の脂肪を盗み、その脂肪で作った石鹸を2人がデパートに卸し始めた頃、『僕』は偶然ボブと再会します。彼も自助グループを抜けてファイト=クラブに通っており、火曜日と木曜日に参加しているといいいます。ある日、タイラーが参加者に対してルールの徹底を呼び掛けていると、真上のバーのオーナーが撤収を要求します。タイラーはオーナーを挑発して殴られ続けた後、覆いかぶさって顔からの流血を浴びせます。タイラーの狂気に恐怖したオーナーは地下室の使用を許可して去ります。

 タイラーはファイト・クラブの参加者に対して、「昼の間に見知らぬ誰かに喧嘩を売ってわざと負ける」という課題を出します。『僕』は上司に会社のリコール隠しを見過ごす代わりに待遇を改善しろと脅しをかけます。上司が断り警備員を呼び出すと、『僕』は怯える演技をしながら自分を殴ってはふっ飛び、テーブルや棚に体をぶつけます。駆けつけた警備員からすれば『僕』が暴行を受けたようにしか見えず、『僕』は訴訟を恐れた会社から在宅勤務の権利や年収相当の小切手を手に入れます。

 ある日、マーラに話しかけてみるものの、会話が噛み合わず機嫌を損ねます。タイラーはある計画を立てており、参加者の中から忍耐力の強い者を選んで邸宅の地下に招きます。スペース=モンキーと名付けられた彼らは黒一色の衣服を纏い、軍隊同然の規律で暮らし始めます。

 やがてある破壊活動がニュース番組で報道されると、それがタイラーのプロジェクト=メイヘムであると発覚します。騒乱計画には「何も質問しない」というルールがあり、『僕』が騒乱計画の具体的な内容を知ることはできません。警察は早々にファイト=クラブの犯行であることを見抜くものの、対策を発表する会見の直前にタイラーとスペース=モンキーが署長を脅し、捜査は中止されます。何も知らされない『僕』は疎外感を抱き、移動中の車内でタイラーと口論になります。口論の末、タイラーは『僕』の自宅を爆破した犯人が自分だと明かし、「流れに身を任せろ」と言い放ちます。車で誰もハンドルを握らない状態で走り、間もなく前方の車に激突して事故を起こします。

『僕』が目を覚ますとタイラーは姿を消し、邸宅内はスペース=モンキーで溢れます。自棄酒をする『僕』の前にマーラが現れるものの、「タイラーはいない」という『僕』の言葉にショックを受け帰っていきます。直後、警官によって撃たれたメンバーが帰ってきます。1人は脚を撃たれ、もう1人のボブは頭を撃たれて即死でした。「自分達には名前がない」と物のようにボブを埋葬しようとするメンバーに激怒した『僕』は「彼には名前がある!」と主張します。すると、メンバーの1人が「死んだメンバーは名前を持つ」と新たなルールを周知させるように発言しますり

 スペース=モンキーの言動に参った『僕』はタイラーを探し出すそうとし、彼の部屋で見つけた使用済み航空券を頼りに彼の足取りを辿ります。降り立つ街には全てタイラーが作ったファイト=クラブがあり、しかも『僕』は迷わず辿り着けました。そしてある店を訪れた時、『僕』は見知らぬ店主から突然話しかけられます。店主は『僕』が先週もきたと言い、記憶がない『僕』が「僕を誰だと思ってる?」と尋ねと、「あなたはダーデンさんです」と返答します。

 慌てて滞在先のホテルに戻った『僕』がマーラに電話をかけると、彼女は『僕』のことをタイラーと呼んで電話を切ります。呆然とする『僕』の前にタイラーが現れ、『僕』自身がタイラーだと分からせます。『僕』にとってタイラーは理想の全てが詰まった存在で、自分を変えるために生み出したもう1つの人格でした。出会う以前にタイラーが送っていた生活は『僕』が不眠症で眠れない夜中に行っていたもので、タイラーとの交流は『僕』の1人芝居でした。知りすぎたマーラを排除するとタイラーが告げると、それを拒絶した『僕』は気を失います。

 目を覚ました『僕』が急いで邸宅に戻ると、スペース=モンキーは姿を消しています。騒乱計画の最終目的がクレジットカード会社など資本主義に関係する企業ビルを爆破することであると気付いた『僕』は、マーラを探し狙われていると警告します。なんとかマーラを説得した『僕』は警察へ自首するものの、応対した刑事は騒乱計画のメンバーで、「邪魔する者はタイラー本人であろうと排除しろ」という命令に従い襲ってきます。銃を奪い取って警察から逃れた『僕』は、爆破を阻止しようとします。

『僕』は無事に爆破対象のビルへと辿り着き、地下駐車場で爆弾を発見します。再び現れたタイラーに妨害されながらも記憶を辿って起爆装置の解除に成功するものの、物理的な抵抗に意識を失います。意識が戻るとそこは建設途中のビルの高層階で、『僕』はタイラーに銃を突きつけられています。地上でマーラがスペース=モンキーに捕まり連れて来られる様子を目撃した『僕』は、彼女を助けるためタイラーを否定して彼を消し去ろうとするものの、やがて「タイラーが銃を持っているということは、僕が銃を持っているということだ」と思い至ります。気付けば銃は『僕』の手にあり『僕』が自らの口内に銃を突っ込んで発砲すると、タイラーは倒れて消えます。

 弾丸は顎の付け根の方を通り、致命傷にはなりません。スペース=モンキーに連れて来られたマーラと再会した『僕』が「もう大丈夫だ」と告げていると、ビルの外で爆破が始まります。2人は手をつなぎ、高層ビルが次々と崩壊する様を見つめます。

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